望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

読者のシンクタンク

 日本の新聞社は①発行部数の減少が続く、②広告料収入の減少が続くー状況下にあり、売上高は減り続けている。こうした状況を打開する妙案がなく、縮小再生産で対応するしかないとなれば、固定コスト削減のために人員削減を繰り返すしかない。インターネット上の自社サイトで課金情報を増やし、収益化を図るが、金を払ってまで読みたい情報がないと見限られているのか、成功していない。

 紙の新聞という市場が縮小を続けていることは以前から明らかだった。情報が流通する「場」はインターネット空間に移行し、それに対応して産業構造や社会システムは変化しなければならず、変化に対応できない企業が淘汰されることは容易に予想できた。新聞社には対応策を講じる時間は十分にあった。だが、日本の新聞社の対応は鈍く、縮小再生産を甘受しているかのような気配だった。

 2021年10月時点の一般の日刊紙97紙(スポーツ紙を除く)の総発行部数は3065万部で前年比5.5%の減少となり、3000万部割れが目前だ。2006年までは4700万部台を続けたが、2016年に3982万部と4000万部台を割り、その後も部数の減少は続き、ついに3000万部台割れが現実となった。

 日本の総広告費(2021年。電通調べ)は6兆7998億円で前年比110%と好調だが、伸びたのはインターネット広告費の2兆7052億円で、マスコミ四媒体広告費(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ)の2兆4538億円を上回った。新聞広告費は3815億円で前年比3.4%増だったが、これは東京五輪衆院選関係の出稿が貢献した(2020年は3688億円だった。2006年以降は1兆円を割り、2018年に5000億円を割っていた)。

 発行部数=購読部数が減り続け、広告料収入も漸減傾向とあって新聞社は何もしなければ、縮小再生産の繰り返しで最後は廃業に至るだろう。打開策として考えられるのは、①購読部数を増やす、②インターネットにおける事業規模の拡大、③新聞発行以外の事業を開拓、④少ない発行部数で事業継続できる新聞社への転換ーなどだ。

 だが、購読者が減り続けていることに対応できていない新聞社には①は困難だろうし、②では各社とも成果が乏しく見える(収益化を論じる以前に、魅力ある情報提供サイトを各社とも提供できていない。各社のサイトは大同小異で独自の個性に乏しく、自社の購読者の繋ぎ止め策の趣)。③では美術展など各社は主催事業を行うが、新聞事業の落ち込みをカバーする規模にはなっていない(そもそも新聞社にとって各種事業は読者サービスの一環)。

 このまま縮小再生産を続けると新聞社は④に向かわざるを得ない。だが、現在の一般向けの紙面のままでは購読部数の減少に歯止めはかからないだろうから、新聞の位置付けを変える必要がある。例えば、速報は自社サイトに任せ、新聞は分析記事の比重を増やす。そのためには記者にph.Dを取得させ、専門性の高い記者を増やすことが必要だ(夜討ち朝駆けなどは通信社に任せる)。いわば読者のシンクタンクだと認められれば、少ない発行部数になっても新聞は生き残っていくことができるだろう。