望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

棒タラ

 棒タラはタラ(鱈)を寒風にさらして水分をすっかり抜いた干物だ。ガチガチに固まっているので、身をほぐすためには水に数日つけておくか、金づちなどで叩いてほぐすしかない。棒タラを煮物などの料理に使うためには水につけて戻すのが一般的だが、酒のつまみなどにするには金づちなどで叩いて、身をほぐして少しずつ食べる。

 棒タラをスーパーやコンビニで見かけることはほとんどないが、酒のつまみとして細く裂いたタラの身を袋詰めした商品はいろいろあって、「むしりタラ」「つまみタラ」「皮むきタラ」「寒干しタラ」などの商品名で売られている。また、タラの身を細く裂いて様々に味付けしたり、甘露煮や味噌漬け、みりん漬けなどにした加工食品も多い。

 棒タラは漁獲したタラを保存して長く食べるための加工法だ。冷蔵庫などがなかった時代に人々はタラやサケ、イカ、タコなどを乾燥させて保存するという加工法を見つけた。タラの干物は中世ヨーロッパでもよく食べられていたという。現代では干物は旨味を増すための加工法となり、アジやサバ、金目鯛、カレイ、ホッケ、ノドグロなど各地で多くの干物が売られている。

 棒タラは北海道や東北地方で製造されてきた。昔は北前船で関西などに運ばれ、煮物の材料として使われて、現在でも「棒ダラ煮」「棒ダラ煮付け」などの料理がある。新鮮な魚が入手できない山間部や降雪地帯などでは冬場のタンパク源として食べられてきた歴史もある。現在では生魚のタラが流通しており、多くのタラ料理がある。

 タラは漁獲量が多い魚種だ。日本周辺にはマダラ、スケトウダラ、コマイの3種がいて、北海道から日本海側では山口県まで、太平洋側ではマダラは茨城県スケトウダラ和歌山県、コマイは宮城県までに分布しているとされるが、漁獲量は北海道がダントツの1位で全国の8割ほどにもなる。

 タラは世界での漁獲量が多く、ロシア269万トン、米国190万トン、ノルウェー106万トン、アイスランド63万トンの順で多い(2020年。タラは北半球の寒冷な海に主に生息する)。魚種別ではニシン、イワシに次いで世界で漁獲量が多いという。英国のフィッシュ&チップスにもタラのフライはよく使われ、ポルトガルやイタリアなどでは干しタラを使った料理が多くあるという。

 棒タラにローラーをかけて、身をほぐしやすく加工した商品もある。形状は棒タラだが、少し力を入れてむしれば身をほぐすことができるので、金づちで叩くという作業を省くことができるアイデア商品と言える。だが、袋から取り出してすぐに食べることができる簡便性には程遠く、棒タラを金づちで叩いて食べていた記憶を持つ世代に向けたニッチ商品だな。