望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

へたり牛

 こんなコラムを2004年に書いていました。

 大量破壊兵器アメリカはイラクでまだ発見できない。国連の調査団も発見できず、「それなら俺達が発見してみせる」と、戦争までして邪魔なフセイン政権を排除し、のびのびとブッシュ政権大量破壊兵器を探し始めたのに、いまだに何も出て来ない。「国外に持ち出された」とか「地中に埋められた」とか、根拠のない言い訳もアメリカから伝わってくるが、開戦の理由とした大量破壊兵器イラクにないと言えない以上は、ブッシュ政権は探し続けるしかない。しかし、ないものを見つけ出すことは難しいぞ。

 一方でアメリカは、あるものを発見しないことに懸命だ。BSEの牛が、カナダから持ち込まれた1頭だけで、他にアメリカ国内にはBSEの牛はいないと言い張る。しかし、年間60万頭も見つかるという「へたり牛」の中にBSEの牛が含まれている可能性は大きい。日本が要求している全頭検査をアメリカが実行したなら、おそらく万単位でBSEの牛が見つかるだろう。そうなると牛肉の輸出は全面ストップするだろうし、今は騒ぎとなっていないアメリカ国内でも不安感が高まり、牛肉消費に影響が出る。

 だから、アメリカは「科学的ではない」などと切り捨てる形で日本の全頭検査の要求を拒否し、牛肉の安全性についての議論に展開しないよう世論をリードしながら、BSEを対日通商問題にずらそうとする。しかし、BSEの牛はアメリカ国内に相当いるだろうし、その牛肉が国内外で流通している可能性は高い。畜産業者や食肉業者を保護するため、あるものを見つけ出さないようブッシュ政権は努力するしかない。

 日本国内では、牛丼販売中止が大きなニュースとして取り上げられた。米産牛肉の安全性については触れられず、「惜しむ」といったニュアンスだった。アメリカでの牛肉流通事情を勘案すると、牛丼に使用されている米産牛肉(おそらく安い牛肉)には、BSE汚染肉が含まれていた可能性が高い。

 そんな牛肉を使った牛丼を、在庫のある限りとして販売を続けた牛丼屋の姿勢に批判的なマスコミはなかった。日本のスーパーの店頭などからは米産牛肉は撤去されたのに、牛丼屋の在庫のみは販売が続けられたのは何故か? マスコミは何故批判できなかったのか? あるものを見つけ出さないよう日本もアメリカに協力しているのだとすると、消費者は騙されないよう自衛するしかないぞ。