望潮亭通信

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独裁政治と腐敗

 中国は1党独裁政治であるため、国家権力は共産党に集中する。最高指導部は中国共産党の中央政治局(委員25人)で、そこから選出された7人で中央政治局常務委員会を形成する。常務委員はまさしく“雲の上”の人物だ。ちなみに、中国共産党中央軍事委員会が、党の軍隊である人民解放軍を指揮し、中国共産党中央規律検査委員会が党の規律維持を担当する。



 2011年まで中央政治局常務委員(当時は9人)だった周永康について2014年、「重大な規律違反」で中央規律検査委員会が調査を開始したと中国国営通信が伝えた。「重大な規律違反」とは汚職事件を意味するという。中央政治局常務委員は現職、経験者を問わず、刑事責任を追及されないとの不文律があったそうで、今回の“摘発”は驚きをもって迎えられた。



 立法も行政も司法も軍事も「道徳」も党がコントロールする1党独裁体制の弱点は、権力をチェックする機能が弱いことだ。だから、1党独裁体制は最高指導部の独裁体制になり、さらには、最高指導部を押さえた人間による個人独裁になりやすい。このため最高指導部内での権力争いは激化し、「政敵」を殺してでも排除しようとしたりする。



 中国では天安門事件後に趙紫陽元総書記が更迭されたが、それが権力者の失脚の最後だった。共産党内での権力闘争激化を避けるために、中央政治局常務委員クラスの指導者の責任は問わないとの暗黙のルールをトウ小平がつくったというが、それが裏目に出た。「権力は腐敗する」といわれるが、司法の監視を受けない独裁権力に腐敗が蔓延することは珍しくない。



 中国は、革命のために権力を前衛党に集中するという発想から、権力を維持するために共産党が独裁を維持するという発想に変質した。社会基盤が整い、経済的に豊かになったのだから、1党独裁を放棄して多党制に移行する頃合いだろうが、1党独裁を維持するために強権を振るって様々な「無理」を重ねている。独裁党が権力を失うことに怯えて、強権を振るうしかなくなったようでもある。



 「重大な規律違反」で中国共産党中央規律検査委員会が調査を開始したということは、独裁する共産党内の組織が間違った決定を下すことはない建前だから、結果は「クロ」と既に決まっている。裁判で「有罪」から「無罪」に覆ることもない。



 その先については諸説が入り乱れる。腐敗して莫大な資産を形成した中央政治局常務委員経験者は他にもいると取沙汰され、周永康以外にも腐敗摘発の矛先が向かうのか、習近平政権の「政敵」だった周永康一派を倒して終息するのか。腐敗が一掃されることは理想的だが、腐敗した1党独裁体制が自浄能力を発揮しすぎると、独裁までもが揺らぎかねない。独裁党内での権力闘争と見たほうがいい。