望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

電車の中でお化粧


 友人の中に1人で子ども(5歳)を育てている奴がいましてね、そいつから聞いた話です。



 平日の昼下がり、首都圏で子どもと電車に乗って座ると、前の座席に若い女性が座り、バッグから鏡や化粧道具を取り出して化粧を始めたそうです。女性が化粧をするところを見たことがなかった子どもはそっと、「パパ、あの人、何してるの?」と聞いたそうです。


 友人は小さな声で「お化粧してるんだよ。キレイになるんだよ」と教えたのだそうですが、子どもはじっと女性を見続け、2駅先で女性が化粧道具をバッグにしまって、降りる様子を始めたところで、子どもは「パパ、全然変わらないね」と言い、周囲の乗客に聞こえて静かな笑いが広がり、友人と子どもは女性ににらまれたそうです。



 電車の中での化粧はいまや珍しくありません。友人の話を聞いて、「キレイに変身する」化粧を見てみたいと、電車の中での化粧を見かけるたびにちらちらと見ているのですがネ、「全然変わらないね」的なものばかりです。近づいて見れば、きっと、肌のきめなど滑らかになっているのかもしれませんが、顔をそんなに近づけるわけにはいきませんや。



 電車の中で化粧することを批判してるんじゃありませんよ。化粧品の匂いが強い時は閉口しますが、基本的には個人の自由です。私的空間と公的空間の区別がつかなくなったことの現れだなんて批判する人もいるようですが、そんな分離が規範としてあった時代が本当にあったのかどうか知りませんがね、大騒ぎするほどのことじゃないような気もします。



 電車の中でちらちら見ている限りでは、化粧しても大して変わらないようなんですが、多くの女性は化粧を続けます。女性が手に持つ鏡の位置ぐらいまで近づいて見れば、えらい変わっているのかもしれません。細かな差異がキモなのかも。でも皮肉屋は、鏡を見て化粧を続けるうちに女性は現実を受け入れるようになるなんて言います。



 一方で、スッピンになると誰だか判らないなんて言われる女性がいますね。化粧がさぞ上手なんでしょうが、相当の厚塗りなのかもしれません。以前の知り合いに、そう言われていた人がいましてね、確かに朝でも昼でも仕事で遅くなった時でも同じ顔をしていました。噂になっていたのでスッピンを見てみたいと注目されていたのですが、ガードが固いというか、いつも同じような顔でした。



 TVでは綺麗なオネーサンが化粧品CMに出ています。化粧しなくても綺麗に違いないと思わせるようなオネーサンばかりで、あんな人たちなら安い化粧品でも十分効果的なんだろうから、わざわざ高価な化粧品は必要ないような気もするのですがね、でも本当は化粧が上手だから綺麗に見えているのかも。化粧の奥は深い……と今日も電車の中での、お化粧に注目するか。