昨年の第72回紅白歌合戦・第2部の平均世帯視聴率は関東地区で34・3%となり、2部制となった1989年以降で最も低く、記録に残る視聴率としても最低になった(第1部は31・5%)。ここ10年ほどは30%台後半から40%台前半だったので、さらに一歩後退というところか。
瞬間最高でも40%台に1度も届かなかった。過去には80%台、70%台を続けたこともある紅白歌合戦だから30%台の視聴率は低く見えるが、テレビ離れの中では「悪くない」数字か(番組制作にかける巨費に見合うかどうかは定かではない)。世帯視聴率ではなく個人視聴率では第1部23.4%、第2部24.8%だったが、こちらも前年より下がった。
視聴率が下がった要因について様々な指摘が出ているが、長寿番組が時代の変化に対応できず、新たな視聴者を獲得できなくなるのは珍しくない。凝った演出だったそうだが、歌番組に特別感がなくなった中で、演出で歌番組が長時間、視聴者を惹きつけるのは無理だろう(動画サイトで内外の歌手やバンドをいつでも見ることができる時代となり、テレビで歌番組は減った)。
歌も変化した。口パクはすっかり定着し、口パクしながらキレッキレのダンスを見せるのが流行りとなり、大勢が揃って動き回る。以前は1人の歌手が中央で歌い、複数のバックダンサーが視覚的に盛り上げたが、今はバックダンサーと歌唱が一体化した。口パクをしないのは演歌歌手が代表格だが、こちらが歌うのは昔のヒット曲が多い。
高齢化が進む日本でテレビ各局は世帯でも個人でもないコア視聴率を独自に設定し、指標にしているという。その対象範囲は各局により異なるが、おおよそ幼児と60歳以上などを対象外としたファミリー層。おそらくNHKもファミリー層を意識して番組編成しているだろうから、紅白歌合戦の構成や演出もファミリー層を狙っただろう。
その結果が34.3%の視聴率。特別感が希薄となった紅白歌合戦を特番の歌番組と見ると、上々の数字かもしれない。それに他局に視聴者が流れたのではなく、紅白歌合戦の占有率は上がっていたというから、テレビ離れの中で健闘したともいえそうだ。つまり、今の時代に紅白歌合戦の視聴率は、こんな程度なのだ。
大晦日に家族が茶の間に集まって年を越すという過ごし方に、多くの歌手が入れ替わり歌うという紅白歌合戦はチョイ見できて適していたのだろう。マンネリ化が強みの紅白歌合戦は、若者に人気の出演者を増やし、凝った演出や構成でもマンネリ臭を払拭できまい。マンネリに徹することもできたはずだが、過去の高視聴率の呪縛にとらわれた紅白歌合戦は、あがき続ける。