望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

経験から学ばない

 「歴史は繰り返す」とか申します。「一度は悲劇的に、二度目は喜劇的に」などと付け加える人もいるようですが。歴史が繰り返すものだとしたなら、好都合の面もあります。過去の記録をよく分析・検討すれば、人類は同じ過ちを繰り返さなくても済みそうですし、適切な対応方法が分かるでしょうから。メデタシ、メデタシ。



 「繰り返すのが歴史」だと言う人もいます。人類は歴史から学ばないという見方です。例えば戦争。人類は地球のあちこちで戦争を繰り返し、多くの死を積み重ねてきました。悲惨さを体験した生き残った人々は、戦争はいやだと拒否感を強め、戦争の悲惨さの膨大な記録を蓄積しましたが、戦争はまた起こります。「戦後が終わった時から、戦前が始まる」……これが人類の歴史です。



 さて、バブルの発生と崩壊は資本主義に付き物だと言う人もいて、そういえば日本でも、それらを経験しました。当時、日本の経験を欧米に教示してあげるなどと何やら誇らしげに言う政府首脳がいました。経済政策の誤りがバブルを生み、適切に対応できなかったから「失われた10年」になったことなど忘れたようです。そもそも日本の政治家には、数々の失言に見られるように「歴史から学ぶ」姿勢が希薄なのかもしれません。



 米欧は日本のバブル崩壊後の対策を研究していたようです。08年に英ブラウン首相はロンドンでの講演で、「日本では金利をゼロにして、政府が国民に向かってお金を投げるような金融緩和政策をとっても、消費回復につながらなかった」「我々は断固たる行動を早めにとる。日本のような過ちは、回避できる」と言ったそうです。

 バブル発生と崩壊について日本は「いい経験」をしたのですから、政策面・経済学面できちんと分析しておけば、資本主義に付き物のバブルについての格好の資料になり、世界から高く評価されたかもしれません。バブル発生・崩壊のメカニズムを解明した経済学者がいたなら、日本人初のノーベル経済学賞も夢ではなかったかも。



 当時、米欧で各国が銀行への公的資金注入を決め、「金融危機は収まったが、次は実体経済低迷が不安材料」とされたそうですが、「日本の経験」からいうと金融危機は簡単には収まりません。不良債権額が徐々に明確化されて行くにつれて金融機関の資本劣化が進み、さらなる公的資金注入で資本増強が必要になるかもしれません。



 「歴史は繰り返す」のか「繰り返すのが歴史」か。いったい人間は、他人の経験から学ぶなんてことができるのか。その答えも歴史の中にありそうです。