望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

ナッチの盗作

 こんなコラムを2004年に書いていました。

 多彩な才能を有している人間は実際にいるもので、画家にして作家であるとか、俳優にしてエッセイストであるとか、俳人にして経営者であるとか、コックにしてタレントであるとか、歌手にしてホステスであるとか、司会者にしてヤンキーであるとか、二足の草蛙を履きこなしている有名人は珍しくない。

 アイドルなるもの、人気が出ると、写真集は言うに及ばず、エッセー集や詩集を出す。出せば売れるから「ゴーストライターがでっち上げるのさ」などという見方もあるが、すべてがそうであるとも言い切れない。ナッチの場合はどうだったのか知らないが、アイドルの中にも二足の草蛙を履く有能な人物がいないとは言えない。例えば、アイドルにして歌が上手であるとか、アイドルにして社会常識をわきまえているとか。

 盗作はなぜいけないのだろうか。著作権の侵害だということだろうが、洋楽をパクった歌謡曲など珍しくはない。ただ、それらは盗作とは見なされないようで、指摘されても作曲家はせいぜいが「ヒントにした」と言うくらい。盗作とヒントの距離は、主観的には長く、客観的には短い。誰の主観かというと、「ヒントにした」人の主観。ただね、ヒントにするのなら、元とは全然似ていないように加工しなければ、「芸がない」ね。

 ところで盗作には、例えば、整形手術で美人女優に顔を似せること、タレントの生き方をまねること、はやりのギャグを使うことなどは含まれない。いずれにも著作権がないからだが、著作権意識が強まる中、そのうちに著作権の対象に含まれる日が来ないとも限らない。そうなると、物真似タレントがテレビから消えるぐらいならいいが、はやりのギャグをつい口にしたなら○○円、美人女優の眉に似せたら○○円、ヤクザ映画を見た後で肩を怒らせて歩いたら○○円なんてことになりかねない…。

 アイドルなんて、いずれ飽きられるもの。歌手でデビューし、ドラマに何本か出て、ヌード写真集を出して、適当に結婚して芸能界を去るという定番コースもいいが、芸能活動を自粛しているナッチよ、今なら芸能界にしぶとくしがみついている先輩タレントの生き方を真似しても盗作にはならないぞ。