望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

お笑い100万票


 大阪には「お笑い100万票」があるという。選挙の時に、笑いながら投票する人が大阪には100万人いる……ということではなく、候補者の公約や主張には無関心だが、「こいつ、オモロそうやないけ」と投票する人々が100万人いるというのである。



 都市伝説の一種みたいだが、ノック知事や橋本知事誕生の背景として「お笑い100万票が動いた」などと語られた。この100万票は、もちろん正確に算出された数字ではなく、大阪には、そうした投票行動を行う人が、ぎょうさんおるらしいで、ということである。



 「お笑い100万票」のような投票行動を、意識が低いとか、民主主義の主権者責任を果たしていないなどと批判するのは簡単だが、自由選挙にはつきものでもある。「お笑い」ではないほうの主権者だって、財政状況、景気対策、福祉対策、農業対策、産業振興など諸々をすべて検討してから投票している……はずもない。大半の人は、自分が関心を持つ分野で候補者を判断している。「お笑い」の人々は、候補者のキャラクターの好き嫌いで判断しているだけだ。



 「お笑い100万票」の対象がタレントに向かうと、「ちゃんと考えないで投票している」と批判しやすいが、そうした投票行動は実は少なくないようにも思える。振り返ると、かつての異常なほどの小泉人気は、主権者がいかに「改革」を待望していたかを示した……はずもなく、一時の石原都知事人気も関東の「お笑い100万票」だったのかもしれない。



 大阪だけでなく各地にも存在するらしいとなると、「お笑い100万票」を既成政党もアテにするようになる。利用しないテはないでというわけで、「お笑い100万票」を掘り起こすことができる候補者の引っぱり出しを既成政党が始める。



 政治と芸能。どちらも「人気」商売と考えると、両者の垣根は低いのかもしれない。国会議員もバラエティ番組などに出て顔を売っているが、語るべき政策が希薄になった政治家はタレントと「質」的にも近かったりして。そういえばタレントも政治ネタでいっぱしの発言をしたりしているから、いよいよ日本では政治と芸能の融合が始まるのかしら?



 政治と芸能の融合はマスコミでは既に始まっている。芸能は政治の上位に位置するものであったはずが、シャベリだけの芸no人が増えたためか、舞台に上がらずテレビカメラの前で稼ぐ連中が増えたためか、芸能は堕落し、政治の次元に落ち、せめては政治家に成り上がろうと勘違いする芸人が出て来るのかもしれない。



 「お笑い100万票」は、政治への軽視・不信・蔑視・絶望などが入り混じったものと考えれば、「正しい」反応なのかもしれない。棄権するよりマシなのかどうか知らないが、しょせん政治家に主権者は裏切られるものと見切ると「お笑い100万票」は、万馬券を当て込んで買う行為みたいなものかもしれない。こうなりゃ、笑いながら投票してやろうか。