望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

咳をすると、にらまれる

 え~、友人が嘆いておりました。彼には喘息の気があってですね、カゼをひくと喘息が出て来て、ときどき咳き込むんだそうです。最近、彼はうたた寝をして、カゼ気味になってしまったそうなんですがね、翌朝、電車の中でうっかり咳き込むと、周囲の人々は露骨に迷惑そうな顔付きで彼をにらんだそうです。



 彼は、あっ、そうかと思い、「新型コロナじゃない」と周囲の人々に説明して回りたかったそうです。「誤解しないでくれ、カゼで少し咳がひどいけど、カゼと新型コロナは別物だ。そんな眼で見ないでくれ」と。でも、説明するより次の駅で自分が下りたほうがいいと判断し、次の電車に乗り換えて、咳が出ないように神経を張りつめていたそうです。



 人の多いところでは、うっかり咳はできませんな、今は。マスコミが連日、大騒ぎしているんですから、人々は過敏になっています。咳だけじゃない。昼間から赤い顔をしていれば、熱があるんじゃないかと見られそうですから、昼酒は控えたほうがよろしいようで。



 マスクをしている人でも目つきが弱々しかったなら、具合が悪いんじゃないかと疑われそうですな。今、マスクをするなら、「私は新型コロナ防御のためにマスクをつけているんです。かかって来なさい」とでもいうような強い目つきをしなければいけませんや。



 マスクにはウイルスの吸入防御効果はほとんどないという指摘もありますがね、日本人はマスク好きだから、構いやしません。色付きや模様が入ったマスクも増えましたが、基本は断然、白です。女子高生などが花柄など模様のついたマスクをしていると、つい「真面目にやれ」と声をかけてしまいそうになりますな。



 マスクというと思い出すのは口裂女。麗しい濡れたような目で、「すてきな女性だ」とつい男がふらふらと誘うと、おとなしくついて来て、暗がりで2人きりになると男にしなだれ掛かり、「素顔を見たい?」と上目遣いで聞く。男が接吻を期待して上ずった声で「もちろん」などと答えると、マスクを外し、女の大きな牙に驚いた男は逃げる間もなく、女は首にガブリ、男は血を吸われる……こんな都市伝説でしたかね?



 航空機の乗客から新型コロナの感染者が発見されると、同乗していた人々も隔離されるんですね。症状が出ていなくても、ホテル暮らし……費用は政府持ちっていいますから、得難い経験ですな。出歩くことはできないそうで、部屋にいるしかないそうですが、本好きは嬉しいでしょうね。



 私も本は好きでしてね、「私は新型コロナの疑いがあります」と申し出て、数日間のホテル暮らしをさせて欲しいくらいで。何を持って行きますかね。けっこう読むことはできますよ。「無人島に持って行く1冊」というアンケートがありますが、「ホテル隔離期間中に読む10冊」なんてアンケートがあれば、どんな本が上位にくるんですかね。「ホテル暮らしのガイド」が1位だったりして。