望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり





懐かしい歌手達

 なんか気が抜けたように、何もやる気が起きない夜がある。そんな時に友人は、ナイター中継でもぼんやり見ながら、酒をだらだら飲むのが一昔前の過ごし方だった。しかし、今は、地上波でのナイター中継が減り、チャンネルを頻繁に変えてテレビを見て、次々に「くだらねえ番組だな」とけなしながら、酒を呑んで時間をつぶす。

 ただ、東日本大震災後には心境の変化があったのか、タレントがスタジオではしゃいでいるだけの番組は、観るに耐えられなくなったと友人。くだらない云々ではなく、それ以前の拒否感めいた感情だ。笑い自体を否定するのではなく、その種の番組の薄っぺらさが我慢ならなくなったという。

 くだらない番組が全部、ダメな番組だというわけではないと友人。観るに耐えられなくなった番組から漂うのは、出演タレントが馴れ合って緩んでいる感じであったり、企画の安易さ・つまらなさであったり……総じていうと、すべてがダラケているような印象だ。

 もとより、酒を飲みながら時間つぶしに、チャンネルを変えながら観るという番組に多くを求めているわけではないと友人。見終わると忘れられてしまうもの、それがTV番組だろうし、観ている間だけでも楽しむことができれば、TV番組としては上出来だろう。だが、期待しないで観るからこそ、見えて来るものがある。大震災は、それに気づかせてくれたという。

 それで、何もやる気が起きず、TVをつけても観る番組がないという夜が増え、それではと友人は読書を試みるが、気力が衰えているだけに、1、2ページ読んだだけで集中力が続かず、読む本を変えてみても同様だったりする。そんな時に、いい時間つぶしを見つけた。それはYouTube で懐かしい歌手達を観ることだ。

 当初は米などのロックバンドやジャズプレーヤーをYouTube で次々と観て楽しんでいたと友人。観たことがなかった連中のライブ映像や、とっくに亡くなったミュージシャンの映像は、いい酒のサカナになる。ある夜、ふと「そういえば、ちあきなおみを、ちゃんと聞いたことがなかったな」と気づき、観てみた友人は「すごい歌手だったんだな」。心にしみ入る歌唱が多く、ファド「霧笛」なんか絶品としか言いようがない。

 ちゃんと聞いたことがなかった歌手は、テレサ・テン奥村チヨなど数多く、観てみると「いいんだなあ」と友人。YouTube で懐かしい歌手を観るという時間つぶしは、これから長く使えそうだ。ただし、気をつけなければならないのは、つい飲み過ぎること。「いい歌には、酒が合うんだ」。