望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり





迷惑をかける

 会見で記者たちを前に、きちんとした背広・ネクタイ姿の中高年の男が数人並んで、一斉に立ち上がって頭を深々と下げる……という場面を見ることが珍しくなくなった。ニュース番組に「今週の謝罪」というコーナーをつくっても、ネタには事欠かないかもしれないな。



 彼らは一斉に立ち上がって頭を下げる前に、例えば「バナメイエビなのに芝海老とするなど誤った表示を6年間続けていました。申し訳ありません」などと具体的な謝罪事項を言うことは少なく(そんな場面をニュース番組では見たことがない)、その代わりに「お騒がせして申し訳ありません」とか「ご迷惑をおかけしました」などと言う。



 危機管理コンサルタントの振り付け(指示)通りに彼らは会見で話し、立ち上がって深々と頭を下げているのだろうが、「お騒がせして申し訳ありません」とか「ご迷惑をおかけしました」などの言葉が意味するものは何か。不祥事が明るみに出て、世間が騒ぐことになるのだが、まるで、騒ぎになったことを謝罪してるような印象で、「問題はそこじゃないだろう」と言いたくなる。隠し通せず騒ぎになったことを残念がっているのかな。



 大きな組織の謝罪の仕方は難しい。立ち上がって深々と頭を下げる幹部連中が直接関わった不祥事なら、彼らに当事者としての実感があるだろう。でも多くは、「現場」で不祥事が起き、その責任を社会に対して立場上、取らざるを得ないから頭を下げているとの雰囲気が幹部連中から滲み出ていたりする。



 迷惑とは「他人のしたことのため、不快になったり困ったりすること」(大辞林)だし、騒がせるとは「騒がしく落ち着かない状態にする」(同)こと。「現場」が起こした不祥事で深々と頭を下げる謝罪を演じることを強いられた幹部連中。「お騒がせして~」とか「ご迷惑~」と言いつつ、対応に振り回されて騒がざるを得なくなり、自分らこそ迷惑をかけられたと感じているのかもしれない。



 不祥事を起こした「現場」の当事者は上司に謝罪し、その上司が幹部に報告して謝罪する。そうした謝罪を受けた幹部は、会見では立場を変えて、「申し訳ありませんでした」と謝罪する側に回らなければならない。頭を深々と下げながら幹部連中が「まったく現場がヘマばかりしやがって。尻拭いさせられ、頭を下げなきゃならないこっちは、いい迷惑だ」と腹の中では思っている……なんてことがなければいいが。