望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

北の国から

 昔々、社会主義を唱えながら実際はK一族で独裁をしている国が北のほうにありました。洪水や干ばつが続き人々は食うや食わずでしたが、政治批判、政府批判が知れると収容所送り、K一族批判がばれようなら家族ごと行方不明にされてしまうという国でした。

 人々はK一族の家長を「お父様」と尊敬しなければなりませんでしたが、その代わり、食料は政府が配給し、人々が飢えることはないというのが建て前でした。

 しかし、農業政策がひどく、食料生産は減少するばかりで、配給は首都など一部を除き機能しなくなり、人々は草を食べ木の根を食べ、やがて、ある者は飢え死にし、ある者は隣の国に逃げ、そこから更に隣の国に亡命しました。

 ある日、K一族の家長が言いました。「社会主義の原則を固く守り、もっとも大きな実利を得ることが、党の打ち出している社会主義経済管理を完成する基本方向だ」と。その少し前に米の配給制を止め、賃金、物価の大幅引き上げを容認することを発表していました。「実利追求」に経済政策を転換したと解説する人々もいましたが、実態は食料配給(自給)ができなくなり、そのことを誤魔化すために「社会主義云々」と言ってみせたのでした。

 食料の確保は差し迫った問題でした。それで、ほかの国に「頭を下げた」ことのない国にしては珍しく、海上で隣の国と戦闘をしたことを謝罪し、国内に住まわせていた他国のハイジャック決行者らを追い出し、隣の国での亡命騒ぎにはだんまりを決め込み、金持ちで力も持っているアメリカに仲良くしてもらおうと必死です。

 統制経済を自由化するときに、十分な物資がなければインフレになるのは世の習い。米の配給制を止めると、人々は自力で調達しなければなりません。ひどいインフレになった……かと思うと、そうはならず、何のことはない、半ば公然と行われていたヤミ市場を追認したということでしかありませんでした。