望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

需要に見合ったインフラ整備

  経済成長とともに中国ではインフラ整備が進んだ。道路が整備され、都市化が進み、高速鉄道や高速道路が全国に張り巡らされ、空港も各地に整備され、原子力発電所などの建設も急ピッチで進んでいる。アジアでも経済成長が続き、インフラ整備の需要が急増している。

 アジア開発銀行(ADB)の試算によると、2010〜20年の11年間にアジアで必要なインフラ投資額は約8兆ドルという。1ドル120円で計算すると、8兆ドルは960兆円。ちなみに日本の15年度予算の一般会計総額は96兆3420億円で過去最大だったが、その約10年分に相当する。8兆ドルのうち半分の4.1兆ドルが発電所など電力部門、ついで2.5兆ドルが道路や鉄道など運輸部門。国別では中国とインドで8割を占めるという。

 インフラが整備されることで、生活環境が改善され、便利になり、快適にもなり、人々は歓迎するだろうが、アジアでのインフラ整備は遅れていた。欧州なら、整備された道路や鉄道が各国を結び、航空路線網も密なのに、人口が多いアジアでは遅れていた。それは、アジア各国に資金がなかったからだともいえる。

 だから、資金を集めてアジア各国のインフラ整備に投資すれば、アジアの流通や交通の近代化を促進し、人々に喜ばれることは確かそうだ。だが、インフラ整備には需要を過大評価するというワナがある。つくってみたものの、通行量が少ない高速道路、乗客が少ない高速鉄道、利用者が少ない空港や商業施設などは日本にも存在する。

 中国でも同じような例があり、年7万8000人の利用客を見込んだ大連長海空港は実際には年4000人にも満たず定期便が運行停止となったり、高速道路(利用者数に関する公式な情報はほとんどない)が通行料不足で多額の損失が出たとか、高速鉄道が3.4兆元の債務を抱えていることなどが報じられている。住む人がいない高層の集合住宅が建ち並ぶ鬼城(ゴーストタウン)も各地に点在しているという。

 売れる見込みがなくても製品を生産することができるのと同様に、インフラも、需要がなくても整備することはできる。インフラが整備されれば需要が出て来るはずだと期待して高速道路をつくっても、1日に十数人しか通らない地域なら、新しい道路だからと通る人が大幅に増えるはずもなくペイするはずがない。

 インフラ整備は人々の生活を改善するための手段であるが、巨額の資金が動くために、インフラ整備をすることが目的とされやすい。そのためには、需要を過大視する。廃れたシルクロードに沿って、交通インフラを整備すれば、人やモノが動くようになり、交通や流通が活発になるのだろうか。需要が本当に存在するインフラ整備とは何か、アジアを舞台に試されることになりそうだ。