望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

供給過剰のツケ

 農作物や漁獲物なら、あらかじめ収穫量を決めることができないので、豊作や豊漁で供給過剰になれば市場で価格は暴落し、逆に不作や不漁で供給不足になれば価格は上がる。供給量の変動により市場で価格が上下することで、供給に応じて需要が調整される仕組みだ。価格の変動を抑えて安定させようとするなら、収穫量や漁獲量の調整が必要になるが、生産者の同意形成が難しかったりもする。

 工場で生産されるものなら、損を出してまでも生産する企業はないはずだから、需要に応じた供給がなされる……はずだが、実際には供給過剰が繰り返される。売れる商品を各社が群がって製造し、販売するので、やがて需要を上回る商品が市場に溢れ、供給過剰に陥り、価格競争を繰り広げることになる。

 価格競争を続けることができなくなった企業は市場から退出、退出した企業の分だけ生産力が削減されることを繰り返し、需要に見合った供給へと調整されるというのが市場経済の調整メカニズム……のはずだが、現実にはそう簡単には進まない。次の売れ筋商品が簡単に見つかるはずもなく、工場や従業員を抱えて遊ばせておくわけにもいかず、生産を続けたりする。

 供給過剰が続くことで不景気となり、企業が淘汰されることで景気が持ち直し、やがてまた供給過剰となって不景気になるという景気循環を繰り返すのが市場主義経済の欠点だとして、需要に対応した生産を主張する計画経済という考え方がある。そのためには、個別の企業の生産をも国家が管理することが必要になる。

 必要なものを必要な分だけ生産するというのは、賢い方法にも見えるが、個別企業レベルならともかく、国家単位で計画経済が成功した例はない。必要な分だけの生産ということは、生産したものは、売れることが決まっているということでもある。品質を良くして、他社のものより売れるようにしようなどという努力をする必要がない。

 高成長が続いて過大な生産力を構築したため、供給力過剰に直面しているのが今の中国だ。インフラ投資で成長を牽引してきたが、過剰なインフラ投資のツケで債務が拡大した。鉄鋼や石炭、セメント業界の巨大な生産力は需要水準を3割上回っているとされ、2014年に2300万台以上が売れた自動車業界の生産能力は2015年には合計すると5000万台にもなったという。

 甚だしい供給過剰の状態にある中国で、企業の多くは中央や地方の政府と何らかのつながりがあるので、淘汰は進まない。供給過剰という市場主義経済の弱点と、需要軽視という計画経済の弱点が同時に現れた今の中国。一路一帯構想などで中国周辺の需要を取り込み、中国の過大な供給力のはけ口にしようと目論むが、中国より資金力が乏しい国でインフラ整備を行ったとしても、収益は限られていよう。

 過剰な供給力に見合った需要がないなら、供給力を削減するしかない。過剰な生産力は、過剰な在庫につながる。余分な生産設備を破壊し、生産力を減少させることで、実際の需要とバランスをとるしかない。そうした決断を下すのは、市場主義経済では個別企業の経営者だが、中国では曖昧だ。中国の企業は市場主義的に行動するが、計画経済的に政府の指示を待つ。計画経済と市場主義経済をミックスしたことによる中国経済の弱点が続々現れてきた。