望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

新しい市場


 外需依存の日本経済を内需中心の経済構造に転換すべきだとする声があるが、日本の内需は成熟しており、輸出していた分を「消化」するほどの市場は内需には残っていない。日本が内需中心の経済構造に転換すると、輸出向けの生産能力を過剰なものとして削減するしかない。当然、経済規模自体はかなり縮小するだろうし、雇用もさらに減らざるを得まい。



 経済規模を縮小し、人々の生活レベルも下げて内需中心の経済でやって行くという提案は、地球環境への負担を減らすとして評価されるかもしれないが、現実には実行不可能だろう。他人の生活ならともかく、自分の生活レベルを政治により下げられることに我慢できる有権者はそう多くはないだろう。



 日本には、内需を満たしてもなお余りある生産能力があるという現実に基づくと、輸出先を広げ、「得意先」を増やすしかない。水野和夫氏の言を借りるなら、先進国の10億人市場にBRICsなどの30億人市場が加わったグローバル市場を開拓することが今後の道……ということになる。



 ただし、グローバル市場に過大な期待は禁物だ。BRICsなどで経済成長が続いたといっても、先進国並みの中間層の形成は途上だ。

 つまり、落ちこんだ先進国市場に代わる市場はすぐには現れないのだが、日本は輸出の減少分を内需ではカバーできないので、先行きの成長を見込んで、新しい輸出市場を開拓するしかない。それはBRICsなどで形成されつつある富裕層であり、中間層。



 成熟した先進国市場では高付加価値で商品を差別化することが有利だったが、BRICsなどの市場には別種の商品が求められる。先進国市場向けとは異なる高付加価値商品を開発・投入することができるか。それは、先進国市場向けより低価格で、一応の機能を備えている商品。



 輸出がダメなら内需……と簡単には行かないのが市場経済だ。生産過剰、供給過剰になりやすいため、常に新しい市場を求め続けなければならない。歴史を見ても、海外で植民地支配をしたり、国内で人々の所得を増加させて中間層を厚くしたり、自由貿易を掲げて他国に市場開放させたりして、新しい市場を見つけてきた。日本が、内需に合わせた経済で行くと経済規模を縮小させるなら、日本列島で1.3億人は生きては行けまい。新しい市場の開拓を続けるしかない。