望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

皆が待っている?

 この30年ほど高い経済成長を続け、GDPでは日本を抜いて米国に次ぐ世界第2位の規模になった中国。外国から資本と技術を呼び込んで、低賃金労働による製造拠点として世界的な商品供給地となった。その一方、独裁体制を続ける共産党による経済統制も強固で、豊富な資金による投資偏重の経済活性化策が続き、その弊害が指摘されている。



 そんな中国経済が崩壊するとの論は珍しくない。2013年に国際通貨基金IMF)が、住宅価格高騰が続く中国の「バブル傾向」に警告を発した。バブルがはじければ貸し倒れによる損失は最悪300兆円規模との試算も出たそうで、深刻そうだ。



 米ゴールドマン・サックス中国経済に注意を喚起した。バブル崩壊などで影の銀行(シャドーバンキング)を含む金融部門の貸し倒れが最悪で18兆6千億元(約295兆円)に達するとの試算を公表。GSは米のリーマンショックは予想できなかったが、その経験を生かし(?)今度の中国のバブル崩壊なら予想できるのかな。



 中国経済の崩壊論は、中国社会に何かミョーなことが見つかるたびに持ち出される。中国経済の崩壊論には世界的に「需要」があって、崩壊を期待して待っている人も多いのかもしれない。中には、数年先に崩壊するとの予想もあって、各種の経済予想と同様に、その時には読者は忘れているだろうから、崩壊を囃し立てて原稿料や講演料で一稼ぎした奴が勝ち(?)かも。



 中国経済に不安がないわけではない。鉄鋼業を始め中国の製造業が過剰な生産能力を抱えていることは知られている。また、中国の地方政府が受け皿会社を経由して過剰な不動産開発投資を行い、そこに銀行がシャドーバンキングで貸し込んでいることも危ぶまれている。借り手のない工業団地や高層マンションが各地に誕生したとしても、資金の回収は難しい。



 更には、所得格差が相当に拡大していることなどによる社会不安の懸念や、人口構成の偏りによる高齢化の急進展、労働者不足が危惧され、賃金の引き上げが続いていることから、低賃金の製造拠点としての魅力は次第に薄れている。不安材料には事欠かないが、高成長から安定成長へ移行するには、調整曲面は避けられない。これは先進国が経験してきたことでもある。



 中国は、欧米への製造・輸出拠点であるとともに、13億人がいる市場でもある。不動産開発の過熱による住宅バブルを懸念してIMFは警告を発したが、中国の場合は、住宅価格が下がれば、高値で買えなかった人々が多くいるので、その実需が顕在化し、住宅市場は活性化するとの見方もある。住宅バブル崩壊で、民需主導の経済構造に移行することが加速されるなら中国経済にとっては“怪我の功名”だろう。



 中国経済の崩壊論を喜ぶのは、経済力をつけるにつれて尊大さを隠さなくなった中国と中国人への反感の現れかもしれない。領土・領海拡張の欲望を隠さなくなり、一方的な主張を高飛車に押し通そうとして時には威嚇も辞さず、交渉では譲歩しないという「大国」中国が存在し続ける間は、中国経済崩壊論の需要は結構ありそうだ。