望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

利を求めて


 こんなコラムを2008年に書いていました。

フランク「資本を持っている人が、工場を建て、機械を設備し、労働者を雇用して働かせ、生産したモノを商品として売り、売り上げ代金から生産コストなどを差し引いた利潤を、自分の利益とする。これが資本主義の解りやすいイメージだが、利潤が積み上がると、わざわざ面倒な手順を経て得る利潤の金額より、保有資金を運用して得る金額のほうが大きくなったりする。世界の実体経済の規模は約50兆ドルとされるが、利を求めて動き回る金融マネー経済規模は約150兆ドルとされる」



リン  「モノやサービスの売買などの実体経済の規模をはるかに上回る金が世界をうろつき回っているというこっちゃナ。ホームレスマネーなんて言われることもあるそうナ。でもな、そんな巨額のマネーが、そうそう、うまく、いつでも利益を出せるんかいナ?」



フランク「そこがポイントだ。金融マネー経済規模が大きくなりすぎ、いい投資機会があると殺到する。例えば、株式に比べると市場規模が小さな原油市場に資金が移動すると、簡単に相場が上昇してしまう。その結果として自動車ユーザーがガソリン代を余計に払うことになり、産油コストは大して変らないだろうから産油国の利益は増える。金融マネー経済はさらに膨張する、ということになる」

リン  「でもな、いッつも、そううまくは行かんとチャうか。日本のバブル崩壊で金融機関は大損こいたデ。公的資金=税金を投入してもらってもフラフラしてて、それではとゼロ金利にしてもらって、預金者の懐に入るはずの金を横取りして、ようやく持ちこたえたという格好だったものナ。それも、あれこれ寄り集まって合併をくり返して、ようやく立っていられたという感じ」



フランク「今回のアメリカの住宅バブル崩壊で、アメリカの金融機関はフラフラだ。中東や中国、シンガポールなどから資本を入れてもらって、ようやく立っているという格好。金融資産の劣化の先行きが見えず、米政府は大幅な庶民減税を打ち出したが、金融機関はクレジットカードの審査を厳しくするなど、貸し渋りが広がっている」



リン  「そのうちアメリカでも金融機関に公的資金投入しなければイカンとなりそうやナ。ところで、巨額の金融マネーが世界をうろつき回っていて、儲けなきゃアカンとなったら、何でもかんでも複雑に証券化して、転がして利鞘を稼ぐことも必要になってくるンやろうけど、チマチマ儲けてもカッタルイ、ドーンと大きく儲けようぜ、と何か仕掛けそうな気もするンや」



フランク「それがバブルだ。少しでも大きなリターンを得ようと巨額なマネーが世界をうろつき回り、世界のどこかの膨張している市場に集まる。そこで過熱を囃し立てて、ババをつかまずに売り抜いたヤツが儲けを手にする。金融マネー経済が実体経済を遥かに上回る規模になると、実体経済が生み出す利潤より、投資で得られ利潤のほうを大きくしなければなるまい」



リン  「そんな言い方やったら、バブルは繰り返されることになるガナ。日本はバブルにこりて、地道に生きようとしてるんじゃないかいナ?」



フランク「こりた人もいるだろうけど、次こそ、逃げるタイミングを間違わず儲けてやろうと考える人もいるだろう。プレイヤーの入れ替えはあるだろうが、巨額な金融マネーが世界をうろつき回っている限り、世界のどこかでバブルは発生する。そのバブルが崩壊すれば、また、どこかで別のバブルの芽を見つけ出して、過熱させて膨張させる。次は中国かもしれないし、インドかもしれないし、CO2の取引市場かもしれない」



リン  「生産を伴わずに利潤を上げようチュー資本主義って、エグイもんやナ。G7で具体策を打ち出せなかったンは、もう国家の手で金融マネー経済をどうこうできなくなったというこっちゃナ」



フランク「国家が自由主義経済を唱えている限り、巨大な金融マネーに対して国家権力にできることは限られる。M&Aなど企業自体も売り買いの対象となった。企業が商品化したように、そのうち国家も商品化して、巨額な金融マネーによって、売り買いされるようになるかもしれない」