望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

溢れるマネー

 米ニューヨーク株式市場は連日で過去最高値を更新し、11月1日にはダウ平均株価が一時3万6000ドルを上回った。景気の先行きへの期待感から買い注文が多いためと報じられた。企業の好決算が続いたが、需要の強さがさらに続くとの見方だ。買いが増えれば増えるほど株価は上がる仕組みだ。

 米WTI原油市場では先物価格が1バレル=80ドルを超える高値が続き、日本でもガソリンや灯油などの価格が値上がりし続けている。各国で経済活動が活発化して需要が回復した一方、減産を続ける産油国は増産に消極的で、供給増加の見通しが立たない。この冬が厳冬になれば原油価格はもっと上がるとの見方も出ている。欧州では天然ガス価格が急騰した。

 これらの価格上昇は、取引市場に多量の買いが入って相場を押し上げたのだが、投機マネーがどれだけ動いたかをマスコミが詳しく報じることはない。相場が上がり続けるとなれば、投機マネーが集まってきて、さらに相場を押し上げる。原油市場などでは実需や供給の動向が相場を動かす原動力だが、投機マネーの動向も影響する。

 原油などの先物市場に投機マネーが流れ込めば、相場を押し上げ、ガソリンや灯油の価格の値上がりを招いたり、電気料金などの上昇をもたらす。社会における需要や供給の動向とともに投機マネーの動向も分析しなければ、現代の経済の動向を正確に見ることはできないだろう。

 モノやサービスの売買という実体経済の規模をはるかに上回る大量のマネーがつくり出されて、積み上がった現在の世界。マネー(金融)経済の規模は実体経済の規模の数倍とも10倍以上ともされ、モノなどの需要供給だけではもはや世界経済を論じることはできなくなった。

 世界に溢れるマネーが米国の株に向かえば株価は過去最高になり、原油市場に向かえば原油高になり、天然ガス市場に向かえば天然ガス高となり、資源市場に向かえば資源高になる。実体経済が産出する剰余金であったマネーが金融市場では大幅な自己増殖が可能になり、やがて実体経済をはるかに上回る大量のマネーが蓄積された。

 膨大に積み上がったマネーは利を求めて動き回り、それが原油市場に流れ込むと相場を押し上げ、ガソリン高や灯油高を引き起こす。実体経済における需要供給の動向だけでは相場の変動を正確に理解することは難しく、実体経済がマネー経済に振り回されるという世界に我々は生きている。