望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

巨額の支出の始末

 ワクチン接種が世界各国で広く行われ、新型コロナウイルスに対して、いわゆる集団免疫を人類が獲得してパンデミックが終息する……が現在、人々が期待する未来だろう。その未来が実現したならば人々が直面するのは、縮小した経済活動の中でどう生き延びるかだ。パンデミック中に飲食店や小売店などの閉店が増え、大企業でも給料カットや人員削減が相次ぎ、多くの人々の生活が不安定化した。

 需要が縮小すると大企業ももろかった。例えば、ANAホールディングスの昨年4〜12月のグループ全体の売り上げは前年比66%減で、最終的な損益は過去最大の3095億円の赤字。国際線は8割、国内線は7割を減便したので売り上げ、利益とも大幅に減るのは当然だ。JALも昨年4~12月期決算は最終的な損益が2127億円の赤字。国際線の収入が前年比95%減、国内線の収入は68%減で、まさに需要が蒸発した結果だ。

 外出や旅行の自粛が続き、JR東日本の昨年4~12月期決算は売り上げが42%減、最終的な損益は2945億円の赤字。今期の業績予想を4180億円の最終赤字から下方修正し、4500億円とした。近ツーを傘下に持つKNT―CTホールディングスは昨年4~12月期決算で最終利益が216億円の赤字となり、債務超過に陥った。旅行需要の急回復が期待できず、今期の最終赤字は370億円になる見込み。

 経済活動の収縮は深刻で、大企業にしがみついている人や公務員らは生活を維持していけるだろうが、不正規雇用や自営業などの人々の多くの生活は不安定になるかもしれない。パンデミック終息で経済活動は徐々に活発化し、旅行を含め消費も活発化するだろうが、人々の生活がパンデミック前の水準に戻るかどうかは不確かで、生活に困窮する人々が相当程度残る可能性がある。

 生活に困窮する人々が増えたなら政府による支援が欠かせないが、日本を含め各国政府はパンデミック対策に巨額の支出を行った。それは、戦時に例えた「非常時」の対応として正当化されたが、財源は借金。つまり、パンデミックが終息して平時に戻ったならば、巨額の借金の財政的な処理=償還の道筋を明確化することが求められる。そこでは、更なる支援のばらまきを行う余裕はないだろう。

 パンデミック終息後に巨額の財政支出のツケを処理するには、①増税、②歳出削減、③インフレ、④デフォルトさせて借金棒引き、などがある。最も望ましいのは、経済を活性化させて大幅な税収増加を図ることだが、それは簡単ではないから各国とも苦労する。増税も歳出削減もデフォルトも難しいなら、インフレで借金を目減りさせるしかないが、実体経済を遥かに上回るマネーが蠢いている世界では、少しでも金利の高い国にマネーがすぐに移動するだろうから、インフレを起こすのも簡単ではない。

 失業者を増やさないためにと疲弊した企業の救援策は行われても、パンデミックの影響で生活が破綻した人々を支える力は各国政府に乏しいだろう。だが、民間経済から排除されて困窮した人々は政府に生活支援を要求するしかない。自由や民主主義などを求めて立ち上がる人々の姿は世界では珍しくないが、生存権を求めて立ち上がる人々の姿を先進国も含め、これから世界各地で見ることができるかもしれない。