望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

富を盗む者

 こんなコラムを2007年に書いていました。

 バブルとは何か。株式市場や不動産市場等へ、値上がりを見込む資金が流入し、価格が上昇を続ける状態ともいえる。不動産市場を例にすると、利用価値・使用価値を上回って値上がりを見込む資金が流入し、交換価値に対する投機状態になることがバブルといえよう。


 現在の中国はバブルの様相を呈しつつあり、株や不動産が高騰しているという。貧富の差がはなはだしいと伝えられる中国で、投機にまわす資金を持っているのは都市部の中高所得層だろう。


 気になるのは、「政府は庶民を立ち退かせた時とかけ離れた価格で、開発業者に土地使用権を売れる。こうした売買を通じて(中略)一部の役人や業者は大いに儲けた。とりわけ03年頃から投機が顕著になった。この流れは、北京、上海、深センなど沿岸部から内陸へと波及」「一方で、多くの庶民には手が出せないほど、住宅価格は値上がりしてしまった。庶民には非常に強い不公平感」があり、「国民の財産だったはずなのに、株放出で一部の地元政府の役人や企業役員が株主となり、大儲けした」(朝日新聞)と伝えられるような状況が進んでいることだ。


 ソ連の崩壊過程で同じようなことが生じた。共産革命により私有が否定され、公有となっていた土地や会社等が、売り払われた。公有であるはずのものを、誰が誰に売ったのか。様々なケースがあったというが、金と力を持つものが所有権を得たという。ソ連崩壊の過程で、人々の生活はインフレに襲われたが、一方で財閥が次々に形成された。簡単にいえば、ぶん取ることのうまかった奴らが、うまくやった。


 ソ連からロシアになり、政治面では自由選挙を行い、複数政党による議会を設置し、アメリカを手本にした大統領制も導入、西側体制にならったが、共産主義経済からの移行に伴う経済的混乱が治まり、資源を経済面の強みとし、財閥と権力の整理が進むにつれて強権的な政治体制へと変わりつつある。


 中国で進行しているのは、共産主義経済の崩壊過程における公有財産の消滅であろう。ソ連崩壊時と同様のことが起こっているのかもしれない。バブル経済についての理論的分析は少ないと聞くが、統制経済崩壊時に関する理論的分析も少ないのかもしれない。


 こんな話を以前聞いたことがある。中国人は飲食店等で金を貯め、やがてその資金を貸し付けることで生きるようになる。つまり中国人の資本は、産業や商業で儲けても、その再生産のためには使われず、金融資本として蓄積される、と。この話をしてくれた人は、だから中国では産業や商業の近代化が進まないと結論づけた。この話を聞いたのは中国で改革開放が始まる前だったが、状況は一変した。産業や商業が外資の導入により近代化が促進された。いわば中国は、“他人の褌”で国内経済の近代化を成し遂げ、低い人件費(搾取か?)による強い輸出競争力によって貿易黒字を溜め込んでいる。


 おそらく中国では、共産主義経済からの移行過程による混乱はまだ続こう。バブルと呼ぶのが正しいかはさておき、波乱を含みながらも金と力が結びつき資本形成が進む。こうした現状を見ると、共産革命とは何だったのかという疑問がつのる。土地等の私有を否定して公有にしてみたものの、数十年経って、勝手に売り払って儲ける奴らが跋扈する。つまりは、マルクスレーニン毛沢東も人々の欲に勝てなかったということかもしれない。