望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

個人独裁と主権在民

 中国で習近平氏が共産党の総書記を3期目も務めて続投することが決定し、党の最高指導部(7人の政治局常務委員)は側近で固められた。憲法よりも優先する党規約は改正されて、習近平氏の絶対的な地位と権威を明記した。習近平氏の個人独裁が中国共産党において制度化された(共産党が独裁する中国では、共産党を支配する人が国家を支配する)。

 同じように個人独裁を制度化したのがプーチン氏だ。ロシア連邦憲法は2020年に大幅に改正され、▽現職大統領の任期制限を撤廃▽国防・国家安全保障・内務・法務・外務などの大臣の任免は大統領が行う▽大統領に首相の解任権▽大統領に検察官の任免権限▽大統領は退任後も刑事責任や行政責任は免責ーなどとなり、プーチン大統領は強力な権力を手に入れると共に、2036年まで大統領を務めることが可能になった。

 共産党の独裁支配だったソ連の継承国であるロシアは、大統領制を導入し、議会制度などを整え、民主主義体制に移行した。だが、主権者である人々はプーチン氏を長期にわたって権力者の位置に選出し続け、ついにはプーチン氏の個人独裁体制が確立することを許した。主権者である人々が、主権をプーチン氏に委ねたとも、人々が主権を放棄したとも見える(プーチン氏が主権を強奪したのだが)。

 個人独裁は、都合よく改正した憲法や独裁政党の党規約の改正などにより制度的には正当化される。だが実際は、反対者などを厳しく抑えこみ、異論を排除することが必要となり、国家権力の暴力が自国民に対して行使されることで独裁体制は維持される。独裁する権力にとって、独裁していることが正統性の証となる(権力を維持するためには、手段を選ばすに独裁を続けるしかない)。

 ソ連が崩壊し、東欧諸国の社会主義政権が続々と倒れて、ロシアや中国が欧米に比べて弱体だった頃、世界は政治的には民主主義、経済的には資本主義に塗り替えられていくと見えた。だが、民主主義はロシアに根付かなかった。経済的にもロシアや中国では独裁権力による経済統制となった。

 個人独裁のロシアと中国に対して、民主主義国(自由選挙により政権交代が行われる国)の欧米諸国は厳しい目を向けている。だが、欧米における民主主義は、国内での激しい対立や分断が続いたり、ポピュリストとも目される人物に人気が集まったりと、理念としての民主主義が現実にはうまく機能しなくなっているとの懸念が出てきたりし、制度としての民主主義の再構築が必要になっている。

 プーチン氏も習近平氏も、人々からの支持が全くなければ個人独裁までたどり着けなかっただろう。なぜ人々は強い権力者を待望したり、好んだりするのか。強い権力者に人々がさまざまな思いを投影し、それが支持となるのかもしれない。個人独裁のロシアと中国が今後、世界にどのような影響を与えるのかは不明だが、権力者の任期を強く制限することが必要であることをロシアと中国の個人独裁は示している。