望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

消費者が減る

 こんなコラムを2004年に書いていました。

ケイン「日本では、派遣で働く人が217万人、フリーターが417万人だという。いずれも若い人が中心だとか。同一労働同賃金は日本では実現されず、これらの人々は正社員に比べ低水準の賃金で働いている。労働者は消費者でもある。デフレ不況が長引いている原因の一つに、消費者が“貧しく”なっていることがある」

マルク「同一労働をこなしながら賃金に差があるのは、収奪の結果である。労働の価値が正当に評価されていない。そもそも労働とは〜」

ケイン「また、始まった。収奪されているから、労働者よ、団結して立ち上がれと言うんだろう? 階級意識なんてアテにならないことは二十世紀の歴史が証明した。今、問題なのは、デフレ不況の中で日本の企業の多くは人件費削減を進め、その方法論を身につけ、その結果として個人消費が冷え込む方向に進んでいることだ」

マルク「新しがっているが、労働問題における本質は変わっていない。首切りやら正社員採用の抑制で労働者の生活不安を煽り、労働者を従順にさせ、労働の価値とは何かを考えないようにさせている」

ケイン「成功した共産主義が世界のどこかにあったら君の言うことにも説得力があるんだがね。いま日本経済で問題にすべきは、このままでは低賃金の労働者が大量に発生する。つまり、購買力の低い消費者が増え、個人消費が停滞し、日本経済は構造的に弱くなるということだ。ますます外需頼みにならざるを得ないということだ」

マルク「日本では中流階級という階級意識が多くの人々に共有されるほど、中間の階層を育み、それが日本経済の足腰の強さともなっていた。その中流層を解体して企業は生き延びようとしているが、そのツケは将来、企業に跳ね返ってくる」

ケイン「それだけ日本ではバブルの傷が深かったということだ。企業は目先の事しか見ていないし、政治家もご同様だ」

マルク「前川リポートでも日本の内需の拡大が第一の課題として挙げられていたが、いまだに個人消費の活発化が課題とは、この20年、政府は何をやっていたんだ?」

ケイン「やっと話が噛み合って来た。個人金融資産が1400兆とか言っても、高齢者が多くを持っている。20年後の日本はどうなっているか? 個人金融資産は減り、大量の低賃金の労働者つまり購買力の低い消費者が溢れる。国内の購買力は低下し、小売業を始め国内市場向け産業は縮小せざるを得まい」

マルク「今は中国向け輸出で日本の企業は好調だが、そのうち中国企業が中国国内向けに対応してくる。そうなると日本企業の輸出先市場は狭まる。個人消費を活発にして日本国内市場を豊かにしておかなければ、日本企業の足元もぐらつく」

ケイン「ようやく見る方向が揃って来たようだ」