望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

最低賃金と公務員

 2022年度の最低賃金(時給)について全国加重平均で31円引き上げるとの答申が出された。この通りに改定されると全国平均の最低賃金は961円となり、都道府県別では東京都が1072円で最も高く(東京・神奈川・大阪の3都府県が1千円台)、最も低いのは高知県沖縄県で850円だと報じられた。適用されるのは今年10月以降になる。

 最低賃金は「産業や職種にかかわりなく、都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に適用」され、「パートタイマー、アルバイト、臨時、嘱託などの雇用形態や呼称の如何を問わず、すべての労働者に適用」される(厚労省サイト)。最低賃金の減額が認められるのは、試用期間中や障害により著しく労働能力の低い人、認定職業訓練を受けている人などだが、使用者が都道府県労働局長の許可を受けることが条件。

 米国などでは人手不足になると、より高い賃金を示して企業は人員を確保しようとするそうだが、日本では最低賃金はパートやアルバイトの募集で「標準」賃金となっていることが珍しくない。最低賃金だから上積みは経営者の裁量で自由であり、従業員を優遇しているとのイメージを最低賃金+αの募集で企業はアピールできるのだが、そんな経営者や企業は少なく、賃金には自由競争の原理はあまり働かず、最低賃金は「自然」に上がっていかない。

 最低賃金の引き上げを答申する中央最低賃金審議会厚労相の諮問機関)で労働者側と経営者側が協議するのだが、経営者側は経営の苦しさを訴えて上げ幅を抑え込もうとする。企業などの賃上げ交渉と同じ構図で、最低賃金の上昇幅も抑え込まれてきた。その結果が先進国では低水準の最低賃金となっている。

 最低賃金は「産業や職種にかかわりなく、都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に適用」されるのだが、公務員は別の賃金体系になっている。人事院が国家公務員の給与水準を勧告し、地方公務員の給与水準は自治体の人事委員会の勧告を経て給与条例が議会で成立することで引き上げられる(人事委員会が置かれていないところは都道府県の勧告等を受けて給与条例を策定)。

 公務員の給料は「級」と「号棒」の組み合わせで決まり、諸手当が乗る。例えば、国家公務員の行政職の1号棒で1級なら月額14万6千円などとなり、指定職の事務次官は月額117万5千円、特別職の内閣総理大臣は月額201万円などとなる。初任給は大卒の総合職なら2級1号棒で23万2840円、高卒の一般職なら1級5号棒で18万7920円。

 最低賃金を公務員にも適用するなら、例えば、パートやバイトから正社員、地方公務員や国家公務員から内閣総理大臣までの賃金体系が明確化する。公務員の「級」と「号棒」の組み合わせの代わりに、最低賃金の19倍が一般職の公務員の給与、最低賃金の210倍が内閣総理大臣の給与などとなる(最低賃金を公務員に適用するなら公務員にも争議権を認める法改正が必要だ)。そうなると最低賃金は経営者側と労働者側だけで決めるわけにはいかず、第三者の参加も必要になるだろう。