望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

二ート

 こんなコラムを2005年に書いていました。

 ニートと呼ばれる若者が52万人いるそうで、厚労省は自立支援・就職支援活動を強化するという。手に職もなく就業意欲の低い若者が大量にいては、日本経済の今後にも大きな影響があるとして動き出したのだろうが、ニートが一時的な現象なのか構造的な現象なのか、その見分けが曖昧では効果的な対策は出てこまい。


 ニートは日本社会の豊かさを表しているとの見方もできる。つまり、働かない子供を扶養する経済力が親にある。一方、将来的な個人消費縮小を示唆するものとして、日本経済の衰退を表すとする見方もできる。リストラや若者の就職難など正社員を絞り込む雇用形態が定着しつつあり、現在ニートの若者はせいぜい低賃金労働者にしかなれない可能性は高い。


 ニートになれない若者はどうするのだろうか。バイト、パート、派遣、臨時など、低賃金で不安定であっても生活のために何かの仕事に就くしかない。おそらく厚労省ニート対策の対象には、これらの「ニートになれない若者」は入っていない。同様に厚労省の対策の対象に入っていないのが、中高年の「ニート」、つまりホームレスと呼ばれる人々。こちらは、当人に就労意欲は残っていても職がないという違いはあるが。


 日本では、中流階層が解体され、階層分化がより進み、所得格差が明確化するという構造変化が進んでいる。多くの人々にとっては、貧しくなるという形で構造変化が現れる。おそらく世界的に見れば、こうした階層分化は特別ではないだろう。つまり、職がなかったり、低賃金労働に従事する貧しい人々は大量にいる。


 共産主義の失敗で階級意識が幻想であることは明らかとなり、また、貧しさと向き合う思想も乏しいが、貧しさの中の人々をそのままにしておいていいわけではない。貧しい人々を援助などの対象と考えるのではない。原則は民主主義である。つまり、自分らに関わりのあることは自分らで決める。自ら動き始めることでしか道は開かれない。


 ニートと呼ばれる若者らの自発性を、厚労省の官僚主導で引き出すことができるかは疑問だが、せめて、ニートと呼ばれる若者らの中から社会を見る新しい視点が出て来ることを期待したい。