望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

黙っていれば誰も気付かない

 白骨温泉(長野県)で入浴剤を使用していたことが2004年に明らかになった当時、ほかの温泉にもインチキをしているのでは?との疑いの目が向けられ、すると、出るわ、出るわ、井戸水や水道水を沸かして温泉と称していたところが続々明らかになった。水道水を使用しているなら、温泉じゃなく銭湯だな。温泉旅館じゃなく銭湯旅館だ。

 同年8月現在で、北は作並温泉宮城県)から磐梯熱海温泉福島県)、那須温泉(栃木県)、伊香保温泉(群馬県)、石和温泉山梨県)、箱根温泉(神奈川県)、西は有馬温泉兵庫県)まで全国16温泉でインチキが行われていたと伝えられた。

 とはいっても、温泉全体でインチキをしていたところはなく、いずれも何軒かの旅館がインチキをしていたということで、源泉を供給してもらえない旅館などが水道水や井戸水を使ったということらしい。

 一方では温泉ブームとやらで、需要に応じて温泉旅館がぼこぼこ増えるのは怪しいという指摘は以前からあり、かけ流し(湯槽の縁からお湯が流れ出ている)をしていないところは、お湯を循環させている疑いがあるともいわれていた。今度の騒動を受けて慌てて、かけ流しに変更したところもありそうだな。

 これまで、水道水や井戸水を沸かした「温泉」を多くの人が楽しんで、「ああ、いいお湯だ」などと言っていたに違いない。要は気分の問題か。温泉地に行って、お湯に入れば温泉気分になるというところ。自分の入った温泉が水道水を沸かした銭湯だったなんて誰も思わず、「温泉」を楽しんでいた。カモにされたともいえるが、ストイックな温泉マニアならともかく、多くは温泉気分を楽しみに来るのだから、「実害」はない。

 井戸水を沸かしたのがいけないというなら、地下1500メートルから汲み上げた地下水を温泉と称しているところ(都市部や都市近郊に多い)もインチキだろう。東京都内に妙な「温泉」が続々誕生しても、それを囃し立てるだけだったマスコミが、各地の温泉の追求をしていた様子は何か奇妙な光景だ。