望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

拡大再生産が破綻

 資本主義は拡大再生産のシステムだ。商品の生産量を増やし続ける拡大再生産を持続するには、常に新たな市場が必要になる。地域の市場から近隣に販路を拡大し、やがて全国を市場として販売を増加させ、拡大再生産を支える。さらには、国外へと販路を広げ、先進国や途上国などに新たな市場を開拓する。

 モノやサービスを売買する現物経済の市場に参入する企業が世界で増え、シェアを分け合い、新たな市場の開拓の余地がなくなるとともに、資本主義は金融経済の市場を開拓した。現物経済は需要に見合った供給が行われるところで市場拡大は頭打ちになるが、金融経済は投入される資金量に応じていくらでも拡大できる。

 最初に金融経済に投入された資金は現物経済によって得られた利潤だったが、次第に貨幣(交換価値)を売買するという金融市場が膨張、資金を金融経済が増殖させ、とうとう金融経済の規模は現物経済の数倍にまで膨れ上がった。ただし、金融経済は、交換価値への投機が過剰になって破綻するというバブル崩壊の危険を常にはらむ。

 モノやサービスを売買する世界の市場の拡大が頭打ちになり、金融経済の市場の開拓も進んで大幅な拡大が見込めなくなった次に現れたのがインターネットによる市場だった。情報や情報発信を売買するというインターネットの市場は、現物経済や金融経済も取り込み、拡大を続けた。インターネットの市場には拡大を制限する要素はないとみえたが、中国などに顕著な政府による規制が成長を制限する。

 資本主義は、新たな市場を見つけ、拡大することで、拡大再生産というメカニズムを維持してきた。現物経済の市場に加え金融経済、インターネット市場と活動範囲を拡大することで資金を膨張させてきた。それがCOVID-19によるパンデミックで、商品やサービスを売買する現物経済が世界で一気に縮小し、拡大再生産のメカニズムが破綻した。

 このパンデミックに資本主義は無力であり、利潤を目指さない国家による経済が人々を支えた。「市場に任せれば全てがうまくいく」との自由な市場が最善であるという資本主義の主張の薄っぺらさが暴かれ、資本主義が利潤を求めて勝手に動く中で、人々の健康や安全は国家による経済に頼ることが明確に示された。

 常に新たな市場を求める資本主義にとって国家は邪魔者だった。資本主義の圧力により、労働者市場などをはじめとして各種の規制緩和が進み、資本による収奪が加速するとともに中間層の解体と格差拡大が進んだ。だが、このパンデミックは資本主義の無力さと国家による経済の必要性を確認させた。

 とはいえ資本主義は強靭だ。社会に不可欠であることが明確になった国家による経済を新たな市場として資本主義は取り込んでいくだろう。それは、資本主義が国家を所有する構造になる。中国など国家が資本主義を所有する構造とは正反対だが、国家と資本主義が強固に結びつく構造は同じなので、人々が見る光景は似たようなものになる。