望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

国家主義市場経済

 2008年に大騒ぎになったのが農薬入り餃子事件。中国から輸入した冷凍食品に農薬が入っていて、中毒して入院した人々がいた。



 中国は中国側に非はないということで決着させたがり、「包装の外からも農薬がしみ込む」とさえ言ってのけた。工場内ではなく、日本も含め流通過程に何かあったとも匂わせた。

 「包装の外からも農薬がしみ込む」というのが中国の好きな「科学的」な発言だとすると、これは大発見だ。包装を通して農薬がしみ込むというのなら、水分さえあれば細菌、雑菌、バクテリアなども通る? 冷凍食品って農薬だけではなく、細菌まみれなの? 中国以外でも同じ条件の実験で再現できてこそ「科学的」と言えよう。



 独裁政権による社会主義市場経済では政府が決めたことに人々は従わなければならないらしいが、自由主義市場経済は違う。決定権はマーケット=消費者にある。食品に問題があった場合、問題点が明らかにされ、それが改善されない限り、市場には受け入れられまい。問題点が残っていれば、同じことがまた起る可能性がある。



 社会主義市場経済とは計画経済下の市場経済なのだろうが、中国は、市場=マーケットを政府が統制する対象と見ているだろうから、国家主義市場経済と呼んだほうがいい。ただし、この場合の市場はあくまで中国国内だけ。中国国内市場ならば(表面上は)強権でコントロールできるかもしれないが、外国の市場には中国政府のコントロールは及ばない。



 コスト安の生産地として中国が世界経済にリンクされている現在、中国政府の強権を持ってしても統制が及ばない巨大な市場が世界に存在している。農薬入り餃子事件のように中国が政府方針として幕引きを図ろうとも、日本の市場で消費者は納得しない。それではと中国が輸出規制をするならば、自分の首を絞めるだけ。



 外資による工場進出が激増し、そこからの輸出ドライブによって中国経済は急成長を続け、その結果、中国国内市場も拡大した。これは言い換えると、中国は国内需要をはるかに上回る国内生産能力を有していることになる。余剰の生産能力分を中国は輸出し続けなくてはならない。しかし、世界の市場には中国政府の強権を持ってしても、統制は及ばない……。



 世界の市場から離れることができなくなった「豊かな」中国。やがて世界の市場の圧力に中国政府は屈するだろうが、それが、どのような現れ方をするのか。強権による統治は、ぽきっと折れるように崩れることがある。世界の市場が発する声を中国政府がどれだけ聞き入れることができるか、そこに国家主義市場経済なるものがしばらく生き残ることのできる、狭い抜け道があるかもしれない。