望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

緊張を高めるメリット

 国際関係において国家間の緊張関係は常に存在する。同盟国の間でも経済的な利害などをめぐって緊張関係は少なからず常にあり、政治的な利害が対立する国の間や、歴史的要因や民族紛争などで反目がある国の間では緊張関係は明確になる。常に冷戦状態にある諸国が存在するのだが、冷戦という言葉はかつての米ソの緊張状態を指すために使われる。

 米ソの冷戦は共産主義と資本主義のイデオロギー対立とも理解され、当初はソ連の封じ込めを米国などは目指したが、東欧諸国など世界各地に共産主義国家が誕生して封じ込めは失敗した。以来、世界において米ソは緊張状態を高めながら、影響力の拡大を競い合う状況が続いた。

 冷戦の緊張関係は長く続いたが、実際に米ソの交戦の現実的な可能性が心配されたのはキューバ危機の時だけだった。しかし、世界では各地で戦争や紛争が絶え間なく起きていて、米ソが様々な形態で関与していたことが多い。それらの戦争や紛争はアジアやアフリカ、南米などで起きていたが、米ソの勢力圏の中心である欧州では限られていた。

 冷戦は米ソによる世界分割支配だったとも解釈できる。同盟国の離反を許さず、米ソは互いに相手の勢力圏の切り崩しに務めた。中ソ対立に加え、欧州諸国や日本の経済的成長など米ソの勢力圏内での変化もあったが、米ソ両国の圧倒的な軍事力と米ソが具体的な緊張関係をつくり出し続けたことにより冷戦の構造はソ連崩壊の直前まで持続した。

 対立構造は、敵と味方を峻別するために有効だ。対立で緊張関係を高める最も確実な方法は、戦争の危機が迫っているとする状況をつくり出すことで、具体的であればあるほど効果は上がる。敵を明確にし、その敵を侵略者として宣伝し、味方の支持を強固にすることで対立構造は維持される。敵国が常に存在することが重要で、体制引き締めに役立つことはジョージ・オーウェルの小説「1984」でも描かれている。

 冷戦では、互いの勢力圏の「周辺」で戦争や紛争が起きることは容認され、緊張関係を維持するために役立ったが、互いの勢力圏の「中央」では非戦が維持された。米露の影響力が相対的に減少し、多極化が進む現在、「周辺」と「中央」の再構築が進み、緊張状態を高めるには場所を選んでいる余裕がなくなり、例えば、ロシアは隣接するウクライナを舞台に緊張を高める。

 冷戦体制は米ソの影響力を維持するために好都合だった。戦争の危機を匂わせて緊張状態を維持することで米ソへの求心力を高め、同時に同盟国に対する干渉力を高め、政治的な利益を米ソは享受した。冷戦構造において最も利益を得たのが米ソ両国だから、緊張状態を高めて米露が利益を得ようと発想するのは自然なことだ。例えば、原油天然ガスの価格を高値維持することは米露双方の利益になる。