望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり





蘇る帝国主義国家

 (10年前に書いたブログを再録します)

 世界は、新しい帝国主義の時代に入ったという見方があります。世界の主導権を握っていた欧米が、経済的に苦境に陥って衰退しつつある中で、経済力を高めた中国、ロシアが、欧米に遠慮することがなくなり、自己主張を強めているのですが、その自己主張が帝国主義的なものであるという見方です。

 帝国主義とは、大辞林によると「広義には、国家が領土や勢力拡大を目指して行う活動・政策。狭義には、資本主義が高度に発達して資本の独占が起こり、資本輸出が盛んになった段階。19世紀末からこの段階に達した列強は植民地獲得競争に乗り出し、国内では反動政治・軍国主義を、国外では植民地支配と他民族の抑圧を強化させた」とある。

 中国、ロシアが自己主張を強めていることは、対日関係にも昨年、顕著に現れました。中国は強圧的に振る舞うようになり、ロシアは独善的・一方的に行動するようになりました。日本の弱体化を見て、すかさずスキをついてきたともいえますが、日本以外の国との関係にも変化が出てきており、中国やロシアが政治・外交の基本を変化させたと見ることができます。

 中国とロシアの歴史に共通するものは、1)暴力革命により共産主義国家になった(共産党の1党独裁政治体制が肯定された)、2)共産革命以前は専制国家であった、3)西欧型の民主主義国家の経験がない。ロシアは自由選挙を実施していますが、権力批判者への「弾圧」など強権的な統治からは、民主主義が実現した社会と見ることは難しいでしょう。

 一方で、共産党独裁国家であった中国とロシアには現在、大きな相違点があります。それは帝国内植民地の有無です。中国はチベットウイグル、モンゴルなど、漢民族の「植民地」を自国内に保有しています。ロシアは、ソ連解体以降に中央アジアカフカスで諸国が独立し、ウクライナベラルーシ、バルト3国なども独立、ソ連内にあった「植民地」をロシアは失いました。

 こうした自国内「植民地」の有無が中国とロシアの蘇った帝国主義に、方向性の違いをもたらしています。国際的に勢力の拡大を求めることでは共通しますが、領土については中国は「拡張」、ロシアは「回復」を指向しています。

 中国の求める「拡張」のターゲットは台湾です。漢民族の国の台湾の併合により中華世界の回復は完成すると見なしているのかどうかは知りませんが、海軍の増強や地対艦など各種ミサイル増強を見ると中国の軍事戦略は、台湾の武力制圧の実現可能性を高めるために進められている気配です。

 ロシアの求める「回復」はソ連の再現ではなく、中央アジア諸国やカフカス諸国への影響力を強めるとともに、ウクライナなどを親ロシアに転換させ、EUのような経済共同体としてのロシア帝国を形成することでしょう。軍事力を行使しての「回復」は対グルジア戦で垣間みられましたが、軍事的な影響力行使の優先順位は、軍の弱体化もあって低いでしょう。

 日本はどう対応すべきでしょうか。日本も帝国主義的に振る舞って、中国、ロシアの蘇った帝国主義に対抗すべきでしょうか。しかし、日本の社会は民主化していますから、国内統制を強めるような政府は選挙に勝てないでしょう。それに、日本軍国主義の復活などと中国などが大声で騒ぎ立て、自国の軍備増強の格好の口実に仕立てるでしょう。

 日本に必要なのは、冷戦期の思考から抜け出すことです。蘇った帝国主義に対抗するには、米国を友としつつ、多極化する世界に対応した多国間関係を構築することしかありません。さらに言えば、善悪概念や情緒を交えずに冷徹になり、十言われたら十言い返すというような自己主張を強めることです。蘇った帝国主義に対抗するには、国際社会での言論戦で支持を獲得して行くことが不可欠です。