望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

言葉を換えると

 中国共産党の中央理論機関誌の2014年版で、「西側は常に自らの民主主義が『普遍的価値』だと誇示し、民主主義に別の形があること否定している。西側の民主主義は本質的に欠陥があり、『普遍的価値』ではない。むやみにまねることは惨事につながる可能性がある」とした。内部からの民主主義を求める声を封じ込めるため、西側という外部が強制するという解釈にして民主主義を否定してみせたのだろう。



 民主主義は中国共産党の1党独裁体制とは共存できないから、中国政府は民主主義を否定せざるを得ないだろうが、近代化するために中国は西側から様々な制度を拝借している。共産党にとっては都合が悪いものだけを声高に否定してみせて、都合のいいものは黙って受け入れる……のは悪いことではないが、そのことが国内でバレないためには、いっそうの情報統制が必要になるだろう。



 ところで、先の文中の民主主義を、例えばマルクス主義に置き換えると、こうなる。「西側は常に自らのマルクス主義が『普遍的価値』だと誇示し、マルクス主義に別の形があること否定している。西側のマルクス主義は本質的に欠陥があり、『普遍的価値』ではない。むやみにまねることは惨事につながる可能性がある」。共産主義共産党というものは西側の発想なのだから、西側の民主主義を否定するなら、そのうちにマルクス主義も否定してみせるかもしれない。



 さらには資本主義に置き換えると、こうなる。「西側は常に自らの資本主義が『普遍的価値』だと誇示し、資本主義に別の形があること否定している。西側の資本主義は本質的に欠陥があり、『普遍的価値』ではない。むやみにまねることは惨事につながる可能性がある」。だから中国は「政治的には社会主義、経済的には市場経済」という社会主義市場経済を導入したんだと胸をはる……のか。



 官僚主義に置き換えると、「西側は常に自らの官僚主義が『普遍的価値』だと誇示し、官僚主義に別の形があること否定している。西側の官僚主義は本質的に欠陥があり、『普遍的価値』ではない。むやみにまねることは惨事につながる可能性がある」。確かに西側の官僚とは比較にならないほど、中国の官僚の腐敗や横暴はひどいらしいから、中国独自の官僚主義があるようだ。



 帝国主義に置き換えると、「西側は常に自らの帝国主義が『普遍的価値』だと誇示し、帝国主義に別の形があること否定している。西側の帝国主義は本質的に欠陥があり、『普遍的価値』ではない。むやみにまねることは惨事につながる可能性がある」。西側の帝国主義が時代遅れになった現代の世界で、世界的な影響力を発揮するには普遍的価値観で理論武装することが必要だが、その流れに乗れないのが中国流帝国主義の弱点か。



 立憲主義に置き換えると、「西側は常に自らの立憲主義が『普遍的価値』だと誇示し、立憲主義に別の形があること否定している。西側の立憲主義は本質的に欠陥があり、『普遍的価値』ではない。むやみにまねることは惨事につながる可能性がある」。中国の憲法に書いてあることは立派だが、運用は政府や官僚のサジ加減次第だとか。人治だからか。



 こうなると先の文中の民主主義は、修正主義、全体主義軍国主義愛国主義歴史修正主義、連邦主義、民族主義、秘密主義、精神主義形式主義、合理主義、拝金主義、血縁主義、菜食主義、原理主義、御都合主義、日和見主義、禁欲主義など、どんな主義でも置き換えできそうだ。中国流の理屈は万能だな。西側とは異なる「中国の」という言葉を付け加えると、どんな主義でも、たちまちに中国の独自性の主張に転化できるのだから。