望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

米中による世界分割支配

 ソ連が崩壊して米国の1強時代になると見られたが、アフガンやイラクへの出兵など軍事力に頼った支配拡大を目指して米国は失敗した。米国では世界を単独で率いていこうとの気配は希薄となり、G20の誕生もあって世界は多極化するとの論が現れたが、大幅な経済成長を遂げた中国が国際政治においても存在感を増し、米中の2強時代との見立てが増えた。

 経済は資本主義で政治は民主主義というシステムが西欧流の近代化だが、資本主義を導入して成功した中国は共産党による独裁統治を強化し、西欧流の民主主義と敵対する姿勢を隠さなくなった。米中が政治や経済で全面的に対立するようになり、軍事的な威嚇行動も珍しくなくなって、米中の2強時代をかつての米ソ対立による冷戦時代となぞらえる論も出てきた。

 かつてのソ連と今の中国の類似点は、①共産党が独裁(共産党トップに権力が集中)、②相当の軍事力を有する(部分的には米国を凌駕する)、③西欧流の民主主義を否定、④国内では政権批判を許さない、⑤造反者に対する過酷な弾圧、⑥文化も統制する、⑦国内植民地を有する(中国ではウイグルチベット、モンゴルなど)、⑧宇宙開発など国威発揚できる事業に熱心ーなどだ。

 相違点は第一に、経済規模(経済的にソ連は弱小国だったが、中国は経済大国)。第二に、世界経済との結びつき(ソ連の西側との経済的結びつきは弱かったが、中国は西側と経済的に緊密に結びつく)。第三に、同盟国(ソ連には東欧諸国など支配する同盟国があったが、中国には同盟国はない)。第四に、西欧文明との距離(ソ連は西欧文明の辺境に位置するが、中国は独自の文明圏に位置する)。

 さらに、ソ連共産主義の「本家」だったが中国は思想的に世界に影響を与える何ものも持っていないというイデオロギー的な相違点がある。中国の専制支配と経済的な成功を羨む独裁者が存在する途上国は多いだろうが、ソ連国際共産主義運動のような影響力は中国にはない。ソ連の存在はイデオロギーでは賛美されたが、中国の存在は経済的な成功だけが賛美される。

 かつての冷戦は米ソによる世界の分割支配だった。米国もソ連も同盟国や追随国を有し、欧州以外の世界各地で対立が時には戦争となって露呈していたが、現在の中国には同盟国も追随国もない。新冷戦とも言われる米中の対立だが、米国と対立して世界を分割支配することが現在の中国にはできていない。

 米国との対立が続き、欧州諸国なども中国に対する警戒感を隠さなくなった状況を受けて中国は自己主張を強めている。欧米主導による国際ルールや普遍的価値感にあからさまに異議を唱え、中国本位の価値観を掲げる。だが、その中国本位の価値観の強調が世界で孤立を強める結果になる。世界を米国と分割支配するどころではなく、中国は孤立感を深め、自己防衛に必死なのかもしれない。