望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

トヨタ2000GT

 先日、バスの窓から、対向車線に白いトヨタ2000GTが走っているのを見かけた。滅多に見かけないクルマだが、見るたびに、その美しさに見とれてしまう。どの角度から見ても、見るに耐える美しさを持つクルマは少ない。陳腐な表現だが、「走る美術品」といえる。

 このトヨタ2000GTは1967年から70年までに337台のみ生産されたもので、当時の価格はクラウンの倍以上の238万円。性能も世界水準だったといわれ、日本を舞台にした007ボンド映画では、オープンタイプにした2000GTが使われた。東名高速が建設中だった時代に、よくぞ、こんな高性能な「作品」を作り、残したものだと讃えたい。

 中国の自動車生産台数は年間2000万台を超している。中国の独自開発車もあるが、欧米や日本メーカーの合弁生産車が主。トヨタ2000GTを誕生させたころの日本よりも現在の中国は生産台数がはるかに多いが、2000GTに匹敵するようなクルマは出ていない。「ポニー」などで国際市場開拓を始めた韓国でも同様に2000GTに匹敵するクルマは出ていない。

 欧米車を手本にしながら独力で開発し、生産を行ってきた日本メーカーと、技術供与による生産から始めた中国・韓国メーカーでは「生い立ち」が違うとはいえ、独自開発する余力ができただろう中国・韓国メーカーから、なぜ「トヨタ2000GT」がいまだに出て来ないのだろうか。

 歴史的に見ると、欧米の大きな影響を受けながらも独力で近代化した日本と、内戦や植民地化もあって近代化を独力ではできなかった中国・韓国。それが企業にも反映していると考えることができる。家内工業的レベルで見ると、日本と中国・韓国にはそれほど大きな差はないだろうが、近代的製造業レベルでは、独力で育成することができた日本と、独力では育成できなかった中国・韓国では違いは大きい。

 しかし、現在では中国・韓国ともに自動車メーカーなど製造業は十分な力をつけているのに、どちらからも「トヨタ2000GT」はまだ現れない。中国・韓国は独自性が希薄なのだろうか。高速列車で見ても、韓国はフランスからの導入、中国は(独自開発とするよう国内では報道規制しているらしいが)日本、カナダ、ドイツからの導入だ。

 トヨタ2000GTは、メーカーのブランドイメージを上げるため技術者主導で開発したものだ。中国・韓国メーカーにも、独自開発の高性能スポーツカーを作りたいと考える技術者はいるだろうが、製品化が実現しないのは、可能性として(1)経営層にブランドイメージのためのシンボルが必要だとの意識が希薄、(2)技術者の社内的地位が低い、(3)採算重視ーなどが考えられるが、基本的な違いは、近代的製造業にも「ロマン」を持ちこめる物づくりの伝統の有無なのかもしれない。