望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

祭りがない夏

 今年は、青森ねぶたや仙台七夕まつり秋田竿燈まつり、盛岡さんさ踊り山形花笠まつり祇園祭山鉾巡行岸和田だんじり祭、阿波おどりよさこい祭り、博多どんたく港まつり、博多祇園山笠隅田川花火大会、長岡市の花火大会など全国的に知られ、多くの観光客を集める催しの中止が相次いでいる。

 全国的な知名度はなくても祭りや花火大会は全国の市町村でそれぞれ開催されている。それらは夏の風物詩となって、楽しみにしている地域の人々も多いだろう。今年は、それらも大半が中止となった模様だ。東京に限っても、高円寺阿波おどり錦糸町河内音頭大盆踊り、富岡八幡宮例祭、阿佐谷七夕まつり浅草サンバカーニバル・パレード、日比谷大江戸まつりなどの中止が決まった。

 祭りや花火大会がない今年の夏。気象庁の3カ月予想では平均気温は全国で平年より高く、特に関東以西では気温が高くなる地域が多いとされる。今年の夏は、気分を盛り上げる催しもなく、海や山も規制されているところが多く、ただダラダラ暑さが続く毎日となるか(ただし、降水量の3カ月予想で関東以西は平年より少ないと気象庁はしていたから、現実が予想通りになるかは不明だ)。

 祭りなどにはそれぞれ由緒があるが、観に集まってくる人々は無頓着だ。五穀豊穣を祈ったり、神仏を崇めたりする気持ちがなくても祭りを楽しむことはできる。演舞や山車などを見て楽しみ、露店を冷やかしたり、たこ焼きなどを買って食べたり、里帰りした友達と旧交を温めたり、若者ならアバンチュールを経験することもあるかもしれない。夏を楽しむには祭りや花火大会は欠かせなかった。

 祭りや花火大会が中止されたのは、不特定多数の人が集まるからだ。感染拡大を抑止するためには3蜜を避けることが有効とされ、人が密集することは社会的に容認されない雰囲気だ。スナックなどでの昼カラや夜の街でのキャバクラやホストクラブなどで感染拡大が現実に起きているのだから、多数の人が集まることを警戒するのは当然か。

 しかし、人間は様々な集団を形成して社会生活を行ってきた歴史がある。家族、氏族、部族などから近代の市民社会へ人々は集まることで社会を変える力を得た。様々な不特定多数の人々が集まって行動することで市民革命や植民地からの独立が達成されたりもした。人々が集まることの否定は人間活動の否定でもあろう。

 人々が集まることを否定し、制限することは権力者にとっては好都合だ。人々を孤立させ、団結させず、分断してバラバラにすることで個人は「無力」となり、権力に抗することは難しくなり、せいぜいSNSで悪態をつく程度になる。祭りや花火大会のない夏は、個人がそれぞれ、暑さや感染の不安、既得権益を追求・保護する権力体制の動きの鈍さなどに苛立ちながら過ごすことになるのか。