望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

シリア化

 「シリア化」という言葉を考えついた。これは、シリアのようになるという意味だ。といっても、4000年以上も前から文明が栄え、多くの人が行き交い、この地を多くの国が代わる代わる支配したという長い歴史を持つことを意味するのではない。強権的な政権に対して国内で反政府運動が始まり、やがて武力対立へと発展、反政府勢力には欧米など外国から支援があり、政府側にも外国から支援があり、内戦状態となって治安が崩壊した状態になることをいう。

 シリア化のほかに「アフガニスタン化」「イラク化」「リビア化」がある。アフガニスタン化とは、外国から強力な軍隊が入ってきて政権を倒し、新たな政権を形成させたが弱体で、旧政府勢力が台頭していること。イラク化は、外国から強力な軍隊が入ってきて政権を倒し、新たな政権を形成させたところまではアフガニスタンと同じだが、国内では分裂が進む一方、新たな武装勢力が台頭すること。

 リビア化は、強権的な政権に対して国内で反政府運動が始まり、内戦状態になって、外国軍の助けで反政府側が政権を打倒するが、後継の政権が弱体で機能せず、実質的に無政府状態になること。この4つの言葉に共通するのは、国外から暴力(軍事力)が持ち込まれたということだ。

 アフガニスタンイラクでは外国が強力な軍隊を派兵して時の政権を直接打倒し、後継の政権構築にも関与したが、新たな国づくりは停滞したままだ。リビアでは外国は反政府勢力に対する軍事的な支援は行ったが、後継の政権構築には直接は関わらない。ただ外国が関わったとしても、後継政権が機能したかどうかは分からない。

 数年前に仏パリで大惨事が起きた。ISISによる組織的なテロと見なされたが、誰がどこで計画し、誰が資金を出し、どんなメンバーが加わり、どんなサポートが行われたかなど、その実態は不祥だ。仏のみならずEUでは外部から持ち込まれた暴力だと受け止めた。

 欧州各国はアラブ諸国に暴力を持ち込み、時の政権を倒して治安を崩壊させ、人々の生活をも破壊することに関与した。外国から暴力を持ち込まれることが、どんなに悲惨で歓迎されざることかを仏やEUの人々は実感しただろうと考えたいが、「これは戦争だ」とフランス政府はシリアでの軍事介入を強化し、人々からの批判の声は伝えられなかった。被害者意識が刺激され、「報復」が容認されているように見える。

 テロによってフランス政府が倒されることはなく、フランスがシリア化することはないだろうが、外部から持ち込まれた暴力に怯え、嘆き、苦しむことでは、フランスやEUの人々はシリアなどの人々と似た境遇に置かれた。シリアの人々は難民となるなど、外部から持ち込まれた暴力から離れようとするが、フランスやEUの人々はテロという暴力からどう逃げればいいのか分からず不安を募らせる。