望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

台湾での感染拡大

 台湾で新規感染者が一気に急増し、政府は全土でバーやクラブ、スポーツジム、映画館、レジャー施設などの営業を禁止し、幼稚園から大学まで一斉に休校させ、居留証を持たない外国人の入国を停止し、台北などでは屋外でのマスク着用を義務化し、人が集まることを制限し、飲食店などの入店には実名記載を義務づけた。

 台湾はCOVID-19の封じ込めに成功したと見られていた。昨年、世界で感染が広がるとすぐに外国人の入国を制限し、帰国する台湾人は入国後に隔離するなどウイルスの持ち込みを防ぐ体制を築いた。だが、最近になって外国から英国型変異株が持ち込まれたそうで、新規感染者は過去最多を記録している。持ち込んだのは入国後の隔離措置が緩かった国際線のパイロットと見られ、その濃厚接触者が市中感染を広げたという。

 厳しい入国管理でウイルスが持ち込まれることを防ぎ、感染拡大を抑止することができた国には脆さが残る。それは①感染が抑止されたため抗体を持つ人々が少ない、②変異株を含むウイルスが外国から持ち込まれると脆弱、③世界からウイルスの猛威が消えない限り厳しい入国管理を続けざるを得ないーなどだ。

 インドの感染爆発のように世界で感染の波は繰り返し、ウイルスの威力が弱まる気配は見られない。厳しい入国管理で感染を抑え込んだ国は、いわば無菌室に人々を閉じ込めたようなもので、ワクチン接種を急がなければ脆弱さはいつまでも残る(ワクチンの効果は未知数だが、他に期待できる手段はないのが現在)。無菌室は、ほんの少し外気が入っただけで「汚染」される。

 世界で国境をまたぐ人の自由な移動が制限され、各国は人々が集まることを規制し、飲食店などの営業を制限した。感染が終息するまでの我慢だと人々は規制や制限に従ったが、我慢を続けるには限度があろうし、我慢を続けること=政府の無力さ・無能さのツケが人々に回されていることだとも見えてきた。

 人間は集団を形成し、様々な社会を形成して生きてきた。その社会は拡大を続け、世界規模での人々の自由な移動を可能にするまでに膨張したが、COVID-19は人々の交流範囲を一気に縮小させた。人と会い、会話や会食を楽しみ、旅をして見聞を広めることなどが人間の生活に不可欠の要素だとすると、各国が行っている規制や制限はいつまでも続けられるものではない。

 だが、まだ各国政府には人々の接触を減らすことしか有効な対策がなく、ワクチン接種拡大にすがる状況が続く。厳しい国境管理で人々を国内に閉じ込めることで感染抑止に成功したと見られた台湾での感染拡大は、さらに厳しい入国管理を招くだろう。それは人々を強く閉じ込め行動を制約する。感染の危機という非常時がいつまでもダラダラ続く状況に世界の人々は置かれている。