望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

敵の能力を見誤る

 世界の新型コロナウイルス感染者数は5億2011万人、死者数は626万人だ(5月13日)。発生源とも見られていた中国は感染拡大を制御していると自賛していたが、今年に入って変異株の感染が各地で広がり、感染者数113万人、死者数5205人との発表だ(5月12日)。上海で都市封鎖(ロックダウン)が長引いているように、ゼロコロナを掲げる中国において感染拡大の沈静化のメドは立っていない。

 首都の北京市でも感染が広がりかけているようだ。北京市は4月24日、防疫措置を強化し、新規感染者が多い朝陽区では全域でPCR検査を頻繁に実施するとし、都市封鎖が実施されることを警戒して人々が食料品などを買うためスーパーなどに押しかけたと報じられた。強権国家の中国における都市封鎖は厳しい取り締まりを伴うので、人々の外出はほぼ不可能になる。

 さらに北京市は4月25日、感染対策を大幅に強化すると発表、住民らを対象にした週内3回のPCR検査を市のほぼ全域に拡大した。感染拡大の封じ込めに北京市が必死になるのは、封じ込めに失敗すれば習指導部の求心力に響きかねず、習近平総書記の3選に影響しかねないとの危機感があるとマスコミは報じた。

 さらに4月29日から小中高校や幼稚園などが一斉休校となり、同30日にレストランでの店内飲食が禁止され、映画館も営業停止となった。公共の場所やホテルに入るには48時間以内のPCR検査の陰性証明の提出が求められる。5月4日に北京市は中心部の朝陽区の企業に原則在宅勤務とするよう求め、同8日には朝陽区で対策を強化するとし、「市民生活の維持に関係がない企業」には営業停止を求め、百貨店などは休業しているという。

 翌9日には同市南西部で市民の外出が禁止され、感染対策以外の全ての活動の停止が命じられた。ほかの地区でも在宅勤務が指示され、飲食店や公共交通機関は閉鎖され、道路や集合住宅、公園も封鎖されたという。こうした北京市の一連の対策は、感染者が増え続けている状況を示すが、同時に「ゼロコロナ」を維持・達成しなければならない地方行政の必死さを浮かび上がらせる。

 「ゼロコロナ」を維持・達成するために中国は、人々に対する厳しい行動制限で内需が落ち込み、経済活動が混乱・停滞するという代償を払っている。人々は不満や怒り・批判を様々な形で表しているが、そうした声はSNSなどに現れても、すぐに消されるという。行動制限や言論統制など強権による封じ込めに頼るしかなくなった状況が示すのは、強権統治の強さか脆さか、判断は分かれよう。

 世界では新型コロナウイルスとの共存に向かい、規制を緩めたり解除する国が相次いでいるが、中国は「ゼロコロナ」政策を堅持する。それは①武漢での感染封じ込めという成功体験の呪縛、②独裁する共産党の無謬性の維持ーなどに支えられるが、変異株の出現が中国共産党の思惑を打ち砕いた格好だ。

 中国が「ゼロコロナ」政策にこだわるのは、新型コロナウイルスという「敵」の能力を見誤ったことを認めることができないからだ。武漢での封じ込めという「初戦」の戦果にとらわれすぎて、変異株が次々に誕生して世界で感染を広げるという新型コロナウイルスの「実力」を中国は認めることができず、厳しい行動制限を各地で展開する。敵の能力を見誤って過小評価し、状況の変化に対応した対策を講じることができない中国。「ゼロコロナ」政策の成功をうたうには、もう感染の実態を糊塗するしかない?