望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

ロックダウンの効果

 首都圏だけでなく全国で新規感染者が激増し、感染爆発が現実となった日本。政府の対策は、緊急事態宣言とまん延防止措置の適用地域の拡大と、人々に外出自粛を求めるなど以前からの対策を繰り返すだけだ。デルタ株は感染力が強いとされるが、デルタ株に最適な新たな対策を示すことができていない。

 以前と同じ対策ではダメだと、もっと厳しい対策を求める声が出始めた。政府の新型コロナウイルス分科会の尾身会長は、ロックダウンの法制化に向けた議論の必要性を公言し、全国知事会も、緊急事態宣言の発令で効果はもう見いだせないことは明白だとして政府に、ロックダウンのような徹底した人流抑制策の検討を求める緊急提言を公表した。マスメディアはロックダウンを求める人々の声を伝えるなど、ロックダウン容認へ加担した風情だ。

 人々の外出や行動を厳しく制限するロックダウンを政府が行うには法的根拠が必要だが、日本では、そんな強い権限を政府に与えることには抵抗が強いだろう(日本には政府が強力な権限を持って人々を統制し、15年戦争に突入して無条件降伏し、独立を失った歴史がある)。だが、政府は感染爆発に無力と見える状況で、新しい対策が求められるのでロックダウンが持ち出された。

 ロックダウンを実施した国は多い。それらの国ではロックダウンで①人々の外出を制限(国内外の旅行などの移動も制限)、②飲食店や小売店など商業施設の営業は禁止、③学校などは閉鎖、④イベントや集会は禁止、⑤感染者が多い地域は封鎖ーなどを行い、違反者には罰金を科す一方で休業補償を手厚くするなど「ムチとアメ」を使い分けた。

 日本は最近の緊急事態宣言で飲食店に対してだけ厳しい営業制限を科したが、飲食店以外の商業施設は営業を続け、学校は閉鎖せず、イベントなども人数制限など条件付きで開催されている。感染者数や死者数が欧米より少なかった日本だが、ワクチン接種も医療体制の整備強化も遅れ、感染力が強いとされるデルタ株の広がりに打つ手が乏しく、人々の外出増加に感染拡大の責任を転嫁して、ロックダウンをチラつかせている。

 ロックダウンに効果があるのなら、欧州諸国などでは感染拡大に歯止めがかかっていただろう。現実は、永遠にロックダウンを続けることはできず、ロックダウン解除後に新規感染者は増加し、最近はデルタ株もあってか日本をはるかに上回る感染者数と死者数になっている。欧州諸国以外にもロックダウンを行った国は多いので、世界の諸国を実例として詳しく検証することが日本でロックダウンを論じる時に役立とう。

 厳しいロックダウンで感染封じ込めに成功した典型は中国だろう(公式発表では累計の感染者数は9万4631人、死者4636人=8月23日現在=とされる)が、それは強権による独裁統治の「成果」であり、日本などの参考にはならない。ワクチン以外にCOVID-19抑制の現実的な方策が見当たらない現在、ロックダウンはワクチン接種が行き渡るまでの時間稼ぎの手段に過ぎないが、ロックダウンの法制化に要する時間を考えると、日本はワクチン接種の拡大に注力するほうが効率的だろう。