中国の首都・北京市の食品卸売市場で集団感染が発生した。感染拡大を封じ込めようと北京市は、市場関係者らの市外への移動を禁止し、市民が市外へ出る場合にはPCR検査を受けて陰性証明を取得し、それを持ち歩くように義務づけた。また、北京を訪問する人には、PCR検査を受けることと一定期間の隔離を義務化した。
中国はPCR検査の検査体制を強化し、1日当たりの検査能力が378万件になったと保険当局。3月初めは126万件/日だったというから、3倍になった(累計の検査実績は9041万件=6月22日まで)。検査体制を強化したのは、より多くの感染者を見つけだすためだ。例えるなら、PCR検査という“網”を大きくして、網に引っかかる人々を感染者として隔離することで感染拡大を阻止する。
社会という“海”は広大だから、PCR検査という網で全ての感染者をすくい取るためには、巨大な網が必要になる。どこかで常に感染が発生していると見るなら、PCR検査という網を社会という海に投入することも常に行う必要がある。北京市は市内に複数の臨時の検査場を設置して既に230万人にPCR検査を行い、飲食店店員、宅配業者らにも検査を義務化したという。
漁網の網の目は、狙う魚の大きさに合わせて大小さまざまとなる。網の目を狭めるなら小さな魚も引っかかるだろうが、大きな魚を狙うには細かすぎる網の目は必要ない。PCR検査という網は感染者をもれなく引っかけることが目的だから網の目は細かくなければならない。それはPCR検査機器、人員、検査場を大幅に増強することであり、また、強権で人々に検査を義務化することだ。
中国に居住する全ての人間がいつでも、どこでもPCR検査を受ける体制が構築できれば、政府は全国の感染状況を明確に把握できるだろう。感染者の発生をすぐに察知し、迅速に対応して感染拡大を封じ込める……ことができるはずだが、PCR検査には限界がある。それは感度の問題で、PCR検査を増やすにつれて偽陰性(陰性と判定されるウイルス保有者)の人も増える。
さらにPCR検査で陰性と判定された人でも、検査の後に感染する可能性がある。PCR検査で陰性と判定されて陰性証明を取得し、翌日に駅や空港に行った時には既にどこかで感染している人はいるだろう(PCR検査を受けて陰性と判定されたから、感染の可能性が無くなるわけではない)。陰性証明はPCR検査で検体を採取した時点のウイルス保有状況を示すもので、何かの資格取得を証明するものではない。
陰性証明を持ち歩くように義務付けたのは、人々の移動を容認するための方便だ。感染者が出ているからと厳しい外出制限に戻ることはできず、経済活動を再開しなければ総倒れにもなりかねない状況であるから都市封鎖なんてできない。ウイルスと共存する新しい日常を持続させるための統治方法の一つが、人々にPCR検査を受けさせて陰性証明を持つことを強制することだ。