望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

ウイルスと検査

 ウイルスとは何か。研究者や研究所、製薬会社のサイトから調べてみた。

 ウイルスの大きさは数十nm〜数百nm(1nmは1メートルの10億分の1)で、電子顕微鏡でやっと見ることができるサイズだ。ウイルスには中心にある核酸にDNAを持つものとRNAを持つものの2タイプあり、核酸蛋白質が囲み、それをインフルエンザウイルスなどでは脂質の膜(エンベローブ)が囲む。ウイルスは自力では増殖できず、他の生きた細胞に寄生して増殖する。

 ウイルスは感染した相手の細胞の中に入り込み、細胞の核の中でDNAまたはRNAを複製させるとともに蛋白質もつくらせ、増殖し、細胞から放出される(感染できる細胞はウイルスの種類によって異なる)。細胞に影響を与えずに細胞の中に入ったウイルスだけを無害化することは難しく、抗ウイルス薬の開発は簡単ではない(ワクチンは予防に効果があるもので、治療に使うものではない)。

 ウイルスの検出方法には、①電子顕微鏡で直接観察、②抗原抗体反応を利用、③遺伝子の増幅、④ウイルス感染細胞を観察などがある。PCR検査は、ウイルスの遺伝子を増幅して、増幅した遺伝子を検出するもの。検体の中に目的の遺伝子があって増えて確認できれば「陽性」と判定し、検体の中に目的の遺伝子がなければ増えないので確認できず、「陰性」と判定される。

 検体は新型コロナウイルスでは対象者の鼻や喉から採取するが、たまたま採取した個所にウイルスが存在しなかったり、採取が正しく行われなかったり、検査機関までの検体の運搬に支障があったり、検査前の処理に問題があったりすると、検体にはウイルスが存在しないことがある。その検体でPCR検査すると陰性になるだろうが、その検体にウイルスが存在しない=対象者の体内のどこにもウイルスが存在しない、とはいえない。

 PCR検査の感度とは、感染している人を検査で陽性と判定する確率。感度70%とすると、感染している人1万人を検査して陽性7千人、陰性3千人となるが、この3千人は実際にはウイルス保有の感染者だ(偽陰性)。ウイルスに感染しているのに陰性と判定され、この3千人が「自分は大丈夫だ」と出歩くとウイルス感染を広めかねない。

 検査機器の感度が30%だったとすると、感染している人1万人を検査して陽性3千人、陰性7千人となる(偽陰性)。これでは検査の意味がない。スペインは中国企業から購入したPCR法ではない簡易検査キット約5万8000個を不良品だとして返品した。感度80%のはずだったというが、実際には30%だった。偽陰性の感染者が野放しになり、感染拡大を促進しただろう。

 PCR検査の特異度とは、感染していない人を検査で陰性と判定する確率。非常に高いとされるが、特異度99%の場合、感染していない人1万人を検査して陰性9900人、陽性100人となる(偽陽性)。この100人は感染していないのに感染者として扱われる。

 PCR検査の数を増やすことは感染の実態を、より正確に把握するために効果があるだろう。だが、PCR検査の数が増えることで同時に、偽陰性偽陽性の人が増える。偽陽性の人が増えても社会的に実害はないが、偽陰性の人が増えて、それらの人が出歩くことで感染を広める可能性がある。