望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

皆が監視対象に

 中国の北京市など主要都市で新型コロナウイルスの新規感染者が増えている。全土で1万人台半ばの新規感染者が連日確認され、各地では厳しい行動制限が取られている。中国政府はゼロコロナ政策を継続する方針で、徹底的に感染拡大を抑え込むことを目指す。PCR検査を大規模に実施し、人々は数日おきに検査を受けているという。

 ゼロコロナ政策では、①大規模なPCR検査、②感染者と濃厚接触者らの徹底的な隔離、③厳しい入国制限ーが行われる。PCR検査の結果が人々の移動の自由を左右する。例えば、北京市では施設や交通機関を利用するには72時間以内の陰性証明が必要で、市外からの訪問者は48時間以内の陰性証明が必要だ。人々は頻繁にPCR検査を受けることを強いられている。

 PCR検査の結果はスマホのアプリ「健康コード」に表示され、人々は頻繁にスマホの陰性証明の提示を求められる。陰性証明を得ている人も、スマホの移動データから感染地区にいた記録があったりすると感染リスクがあると当局に判断され、アプリがフリーズするので更にPCR検査を数回受けて陰性証明を得なければ、交通機関に乗ることができず、出張先で身動きがとれなくなった人も珍しくないと報じられている。

 感染者が出ると集合住宅や地区が閉鎖されるので、人々は閉じ込められる。感染リスクがあるとされた人々を社会から強制的に隔離することで感染拡大を抑え込むというゼロコロナ政策は、公式発表では欧米諸国に比べて少ない感染者数と死者数という成果と成功体験を中国にもたらした。新型コロナウイルスは世界から消えず、感染力が強い変異株の蔓延もあって、ゼロコロナ政策の限界が明らかになったが、ウイズ・コロナ政策に中国は転換しない。

 ゼロコロナ政策は変更できないのだという説がある。ゼロコロナ政策を解除した場合、6カ月で感染者数は1億1220万人、入院者数510万人、うち重症者数270万人、死亡者数160万人になるとの研究が米の医学誌に掲載されたそうだ。中国の国産ワクチンの有効性はファイザーなどより低いと言われ、ウイズ・コロナ政策に転換したなら、感染爆発が起きる可能性が高いので中国はゼロコロナ政策を続けるしかないとの説だ。

 問題は、防疫対策としてのゼロコロナ政策が人々(=人民)の管理に活用されていることだ。当局が徹底的に人々を監視し、施設などに隔離して閉じ込めて「社会の安寧」を保つことを中国はウイグルなどで行っているとされる。そうした当局の強硬策(「成功」体験)が中国全土においても適用されるようになった。

 中国政府の暴力がウイグル人などに向けられていた時、漢人など多くの中国人は座視するだけだった。権力の暴力に苦しむ人々が社会に少数でも存在するなら、いつか、権力の暴力は社会のすべての人々にも向けられるということを中国は示している。中国人は現在、皆がウイグル人体験をしている。