望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

それぞれの感染爆発

 ブラジルで新型コロナウイルスの感染爆発が生じているが、死者が5千人を超えた日に記者に問われたボルソナロ大統領は「それで? 私に何をして欲しいのか?」と答え、「私に奇跡は起こせない」「これが人生だ。明日は我が身になるかもしれない」などと述べ、深刻に考えていることを示さず、具体的な対応策にも触れなかったという。

 新型コロナウイルスを「ちょっとした風邪」とするボルソナロ大統領は4月中旬、新型コロナウイルスに「70%が感染する。どうすることもできない」とし、「われわれは働かなければならない」と同国内の各州が独自に実施している営業規制の緩和を求め、経済活動の再開を重視する姿勢を示した。

 ブラジルの街中では外出自粛令を無視する人々が多く、営業を続ける商店も多く、保健相が解任され法相が辞職するなど連邦政府は揺れており、感染拡大を抑止するのは簡単ではなさそうだ。感染者は10万人以上とされるが、実際にはその10倍以上になるとも見られている。

 ロシアでも感染爆発が起きていて、3月末に約2300人だった感染者数は1カ月で10万人を超えた。2月にロシアは中国人の入国を禁止し、中国ルートの感染拡大を封じ込めたが、欧州との往来は禁止せず、感染が拡大する欧州から多くのロシア人が帰国したりして欧州ルートの感染が広がったと見られている。

 ロシア政府は積極的に検査数を増やしたので感染者数が増えたとする。死者数が1千人台に止まっているので致死率は欧州各国より低く、検査数の増加で感染者が発見されて数字が増えているとの説明に一理ありそうだが、軍や北極圏の建設現場など地方でも感染者が急増していると伝えられ、すでに感染が広がっていた可能性もある。

 シンガポールでも感染爆発が起きている。感染者数は東南アジア最多となっても増え続け、人口600万人にとどかない国の感染者数が日本よりも多くなった。政府の当初の対応は迅速で感染拡大を封じ込んだ成功例とされたが、同国内に100万人以上いる東南アジア出身などの外国人の出稼ぎ労働者が放置されていた。

 低賃金の外国人の出稼ぎ労働者は狭い専用寮に住み、クラスター(感染者集団)が複数個所で発生した。1部屋に10人以上が詰め込まれ、いわゆる3蜜の環境で暮らすことを余儀なくされていた外国人出稼ぎ労働者はシンガポール政府にとって配慮に値する対象ではなかったようだ。それが感染拡大で政府は直視せざるを得なくなった。

 ブラジルでは貧困層の人々がスラムで暮らし、シンガポールでは低賃金の外国人労働者が寮などに押し込められて暮らし、ロシアの富裕層などは西欧の住居やリゾートと行き来して暮らす。貧富の格差が拡大する世界各国の状況をウイルスは、くっきりと描き出した。