望潮亭通信

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色あせた「勝利宣言」

 中国の北京で集団感染が発生した。北京最大の食品卸売市場から感染が広まったとされるが、扱っている食品などにウイルスが付着していたのか、ヒトからヒトへの感染なのか感染ルートは特定されていない。同市場は閉鎖され、周辺の居住区に外出制限が拡大され、同市場と接触歴がある人は市外に出ることが禁じられた。

 ここ2カ月ほど北京市では新規感染者は出ていなかった。北京市は警戒レベルを 2番目の高さに引き上げて「戦時状態」を宣言した。市内に約200のウイルス検査場を設置し、検問所では住民の検温を行い、屋内スポーツ施設や娯楽施設、多くの学校は閉鎖された。

 隣接する河北省のほか、遼寧省浙江省四川省にも感染が広がっており、北京市は市民に対し、必要がないかぎり市外に出ないよう求め、市外に出る場合は事前にPCR検査を受けて陰性証明を携行するよう指示した。北京市内では人の移動の管理が厳しくなり、マンションなどでは入り口で住民の体温検査や強制的な登録が行われ、地域コミュニティーごとに管理の徹底が促された。

 北京市と各地と結ぶ長距離バスの運行は停止され、北京を離着陸する航空便のキャンセルが増えた。北京市は地方から北京に入る人にPCR検査と隔離を義務付けたが、北京訪問を控えるよう呼び掛ける地方が増え、北京市の感染リスクが高い地域を訪れた人に14日間の隔離措置を課す地方政府もある。

 中国政府は数カ月前から、新型コロナウイルス感染を抑え込んだと「勝利宣言」の宣伝を国内外に向けて行い、感染拡大が続く他国を援助する立場であることを強調、世界で感染拡大が続く状況を中国に有利に活用していた。だが、北京での今回の感染拡大を阻止できず、「勝利宣言」は色あせた。

 武漢での感染拡大を中国は強権で、都市封鎖し、企業や商店などを閉鎖させて経済活動を停止させ、人々の外出を制限し、全国から医療関係者を招集して大規模な治療体制を構築して抑え込んだ。だが、武漢よりもはるかに大きな都市であり、首都である北京でも武漢と同様の都市封鎖を行うことは政治的に困難だろう。北京を都市封鎖するなら、「勝利宣言」をした中国政府のメンツは丸つぶれだ。

 国家の強権は人々を厳しく管理することも過酷に抑圧することもできるだろうが、ウイルスを人々と同じようには管理できない。早すぎた「勝利宣言」は強権国家の焦りの反映だろう。焦りとは、感染拡大を許して国内外で多くの犠牲者を出したことから目をそらさせ、国内で愛国主義を高める必要性に迫られて生じたと見える。