望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり





謀叛有理

 造反有理とは「反逆には道理があるということ。1939年毛沢東が演説に用い、文化大革命の際、紅衛兵がスローガンの一つとして用いた」(大辞林)。この言葉が日本でも広く知られるようになったのは、中国の文化大革命の頃からで、当時の学生らも使っていたように記憶するが、冷戦後の左翼勢力の衰退とともに忘れられて行った。



 中国では、3千万とも5千万とも7千万とも1億以上とも言われる死者を出した文化大革命そのものが「負の歴史」としてタブー化されている。おそらく造反有理などの言葉も禁句のような扱いになっているのだろう。それに、貧富の差が凄まじくなり、官僚の腐敗が深刻な中国で、造反有理などという言葉に市民権を与えたならば、「人民の造反には理がある」などとして人々が立ち上がりかねない。



 そんな中国で2013年、北京の天安門前に車が突入・炎上し、45人の死傷者が出た。車内で死亡したのは夫婦と高齢の母親の3人だが、当局によると、「国際テロ組織」のウイグル独立派組織「東トルキスタン・イスラム運動」(ETIM)の指示があったのだという。



 本当にETIMが指示していたのだとすれば、自分たちのメッセージを伝えるアピールがなされないのが不思議だ。それに、「自爆テロ」なら1人でも可能だった。家族ぐるみで車に乗っている必要はない。ETIMに国際テロ組織としての力があるなら、単発では「テロ」は終わらず、全国で同様の事件が続発する可能性があろうに。



 こうなると、客観的事実として、天安門前での突入・炎上事件がテロであったのか疑問になる。反政府・反体制運動を力で抑え込む中国政府が、治安が完全に保たれるべき北京で事件が起き、隠すことができなかったので、「テロだった」と言い繕っている印象だ。事件の実態はどうであれ、国家に都合の悪い事件だから「テロだった」とし、テロ組織を非難して自己正当化する……ほかの国でもありそうなパターンだ。



 中国でウイグル族が多く住む新疆ウイグル自治区は、小麦や綿花、果物などが栽培されるほか、石油や天然ガスなどの豊富な地下資源を有している。ウイグル族が経済主体であればまだしも、大量に移住した漢族が経済の実権を握っているといい、それを支えるのが軍と武装警察だ。多数の死傷者を出した09年のウイグル人漢民族の衝突以来、ウイグル族に対する締め付けは厳しいという。そうしたウイグル族には「造反有理」いや「謀叛有理」と叫ぶ権利があるかもしれない。



 武力による革命で権力を握り、独裁を続けている中国共産党政権が今になって、暴力だからテロはダメだと言うのは「大人になった」からだろうか。でも、今でも中国共産党や中国政府の暴力は正当化し、司法制度が機能しない中で、人民が不満を爆発させたなら「テロ」だと決めつける……彼らがテロを批判するのは、自分らにコントロールできないテロ(暴力)はダメだと言っているに過ぎない。