望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

偶像からの脱出

  グループとして活動していた人達が、年月とともにメンバー各自の方向性の違いや不和などが顕著になり、解散することは珍しくない。個人が集まって結成したグループの場合、一緒に活動することによる不満や苦痛のほうが満足や楽しみより大きくなったなら、自らの意思で解散できる。グループの主導権をメンバーが有しているから、グループの進路を自分らで決めることができる。


 プロダクションがメンバーを集めて、つくりあげたグループの場合、生殺与奪の権はプロダクションが握る。グループとしての活動に不満があってもメンバーは、プロダクションの意向に従うしかない。従わないなら、グループから追い出される(売れていないグループなら、もう余計な金は使えないと、解散させられる)。


 プロダクションは、歌手やタレント志望の少年や少女の中からメンバーを選んでグループを形成させ、テレビ各局に売り込み、楽曲を与えてデビューさせ、“金のなる木”に育てる。個人が集まって結成したグループなら、楽曲をつくることも、それを披露する場を得ることも自力でやるしかない。そうした“産みの苦しみ”をくぐり抜けて大きな存在となる(もちろん、大半は消えていくが)。


 ビートルズローリング・ストーンズのようなビッグ・グループになると、自らの創作や活動の自由を保つため、マネジャーやプロデューサーを自分らで選び、自分らでレーベルをつくり、自分らでツアーを企画し、バンド名を自分らで所有し、グッズ類の製作・販売を管理する。メンバーの交代やグループの解散を決めるのも自分らだ。


 プロダクションがタレント志望者を集めてつくったグループが、与えられた楽曲を歌ってヒット曲を連発したりもし、各メンバーに音楽などの才能があるようにプロダクションが演出したりもするので、自発的に集まったグループと混同されやすい。しかし、そこには大きな違いがある。前者が行っているのはタレント活動であり、後者が行っているのは音楽活動だ。


 プロダクションは、グループとして売るとともに各メンバーの“バラ売り”も行い、メンバーは個別にテレビのバラエティー番組やドラマなどに出演するようになる。個別のタレント活動の場が広がると、グループとしての活動は従属的になるが、それをプロダクションは歓迎する。グループなら1番組にしか出られないが、個別メンバーでバラ売りすれば複数の番組に同時に出ることもできるから、売り上げが上がる。


 プロダクションの所有物であるグループを、メンバーの意思で解散させることが難しいのは、メンバーは管理され収奪される対象でしかないからだ。自発性を求められない従属的位置づけの存在であるメンバーが、急に自己主張を始めたところで、プロダクションに聞き入れてもらえるはずもない。


 音楽などの才能に関わりなくプロダクションに「アーティスト」に仕立て上げられたタレントは、自立しても「アーティスト」として生きていくのは難しい。グループの解散を求めることはタレントとして自殺行為であるが、それでも解散を求めるなら、プロダクションのクビキを脱して自立して生きる機会になる。プロダクションと対立した多くのタレントは消えたが、プロダクションに従属して生きる人生だけが最高とは限らない。