望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

米中の妥協

 米中は貿易交渉を巡る「第1段階の合意」文書に署名した。この合意は①知財保護、②技術移転の強要禁止、③農産品の非関税障壁の削減、④金融サービス市場の開放、⑤通貨安誘導の抑止、⑥輸入拡大、⑦履行状況の検証の7項目から成る。

 この合意が実行に移されると中国は、中国における知的財産の保護と執行を強化し、外国企業に技術移転の圧力をかけることを禁じ、証券や保険・銀行・電子決済などの分野で米国企業の活動を拡大させる等を行う。さらに中国は今後2年間で、米国からのモノやサービスの輸入を2000億ドル(約22兆円)以上増やす。

 増やすという2000億ドルの内訳も決められ、工業製品777億ドル、農産品320億ドル、エネルギー524億ドル、サービス379億ドルとされる。これから中国は大量に米国からの輸入を増やし、対米黒字の削減に努めている様子を米国にはっきりと見せなければならなくなった。

 こうした数字の設定は自由貿易の精神にそぐわないだろうが、自由貿易なんて自国の利害に合わせて出したり引っ込めたりできる標語だと見るなら理解できよう。次々と関税を高める米国相手に自由貿易の旗手を演じて見せた中国だったが、自由という言葉との不調和感がつきまとっていたので、中国に似合いの管理貿易に落ち着いたか。

 この合意では米国に中国が一方的に押し切られた格好で、メンツは丸潰れだ。中国からの輸入品に次々と関税を課し、輸出で稼ぐ中国経済にダメージを与えて中国に譲歩させた米国の戦略が功を奏したと見える。社会主義市場経済であるという中国は、政治では諸外国と妥協はしないが、経済では交渉次第で妥協もする柔軟さを持っているらしい。

 半年前の前回の貿易協議は決裂した。その理由は明らかにされていないが、まとまりかけた合意内容が米国に妥協しすぎだと中国共産党内部から強い批判が出て、中国は大幅修正を要求せざるを得なくなったが米国は受けいれず、暗礁に乗り上げたとの噂。今回の合意も中国の大幅譲歩に見えるから、中国共産党内の調整に半年かかったらしい(あるいは、米国が妥協したか)。

 この合意内容を中国が着実に実行に移し、ついでに国内市場の開放を進めつつ政府統制色を薄め、構造改革も行うなら世界各国は歓迎するだろう。だがね、この合意が書かれているとおりに実行されるかどうかは別問題。「上に政策あれば下に対策あり」というお国柄だというから中国政府だって対策は秘めていて、米国や国際社会に対する面従腹背に見られても動じないだろう。