望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

過剰なプライド

 中国の発表によると、2018年のGDPは前年比6.6%増の90兆309億元だという。日本円に換算すると1500兆円超になり、日本のGDPは548兆円だったので、中国の経済規模は日本の3倍近くにも成長した。米国は20兆4940億ドルで世界1位を続けている。

 軍事費で見ると、中国の2019年の国防予算は1兆1898億元(約20兆円)で日本の約3.8倍の規模。2000年に比べ約10倍に増えて世界2位になったというから、中国は軍事大国でもある。米国の国防総省予算案は6860億ドルで中国の約3.5倍になるが、中国の軍事関連予算はあちこちに別項目で振り分けられているとされるので、米国との差はもっと小さいかもしれない。

 さらに、購買力平価で見た経済規模では中国はすでに米国を抜いているといわれるから、国防予算額で中国は米国より少ないとしても、実質的な購買力で米国との差は縮まるだろう。物価水準を勘案すると中国の調達能力は相当に高く、技術力の向上もあって高性能の最新ハイテク兵器を装備するようになった。

 経済大国になり軍事大国になった国が、国際的な影響力の拡大を求めるのは歴史的には自然なことだ。中国も、欧米主導の国際秩序に対する異議申し立てを強めている。だが、欧米主導の国際秩序が公正でも公平でもないことは明らかなものの、中国の異議申し立てに対する賛同国は少ない。

 かつてソ連が欧米に対抗した時には、イデオロギーが国際的な影響力につながり、ソ連の賛同国も賛同者も世界に少なからず存在した。だが、中華思想には国際的な賛同を得る力はないだろうし、1党独裁や国家資本主義は同類の国だけが親近感を持つ。軍事大国としての中国を歓迎している国は見当たらず、中国が有する国際的な影響力は経済力だけというのが現状だろう。

 欧米主導の国際秩序に対する中国の異議申し立てに対する賛同が世界に広がらないのは、中国が自国の利益だけを目的に動いていることが見え透いているからだ。共有する利益が乏しければ賛同者は広がらない。つまり中国は何かの代表者、代弁者ではなく、ただ中国の利害で動いているだけだ。

 欧米以外で経済大国かつ軍事大国になったのは、かつては日本だけで、白人の世界支配に対する挑戦とみなす向きもあった。中国は非白人国家であり、かつて列強の侵略に苦しんだ歴史がある。だが中国は白人の世界支配に挑戦する代表にも、帝国主義に対する挑戦者にもなり得ていない。自己の文明に対する過剰なプライドと振る舞いが、賛同者を遠ざけているように見える。