望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

独裁の中国と民主主義の中国

 中国は核心的利益と決めた対象について、対外的には強硬で非妥協的な姿勢になる。台湾は中国が最優先する核心的利益であろうから、台湾を独立国家と見なす動きがあれば国際的にも封じ込めようとするが、外交的な恫喝が通じない米国に対して中国には有効な抑止策はない。

 だから米国は、中国のいう核心的利益を中国相手の交渉材料に使うことができる。軍事的にも経済的にも中国を上回る米国に対して、中国は米国の反応を試しつつ、小出しに緊張感を高めても関係を絶つことはできないので、言葉で激しく批判するぐらいが限度か。激しく批判されても米国なら激しく批判し返すだろう。

 「一つの中国」の主張は、二つの中国が存在することから生じた。どちらが中国を代表するのかを中華人民共和国中華民国が争い、東西ドイツのように分裂国家として国際社会で共存することを双方とも是としなかった。

 分断国家には2種類あり、既存国家の内部に複数の政府ができて分裂するケースと、国家形成を目指して複数の政治主体が争う中で分割支配となるケース。ドイツは前者、中国は後者で、国共内戦の延長として、どちらが中国を代表するかを争っている。

 「一つの中国」とはまず台湾だった。国際的にも中華民国が大陸を含めて中国を代表すると認められていたが、大陸は中国共産党が支配し、その国家形成が進むにつれて国際的にも形勢は逆転、中華人民共和国の国連加盟とともに中華民国は国連を脱退し、「一つの中国」は大陸中国側を意味するものに変化した。

 現在、「一つの中国」を支持するとは中華人民共和国を支持することであり、中国共産党の独裁統治を支持することにもなる。民主主義に基づく国家を中国人も構築できることを中華民国は示しており、大陸の中国共産党は独裁を正当化するために中華民国を否定しなければならない。そのため「一つの中国」とは大陸中国だと国際的に認められることが必要なのだが、民主主義が機能する“もう一つ”の中国を排除することで国際社会が失うものは大きい。