望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

やり返すという対応法

 やられたら、同じ分だけ、やり返すという対応をする人は、強い精神力を有するタフな人物と見られるだろう。批判されたら同じように相手を批判し、嘲笑されたら嘲笑し返し、1発殴られたら1発殴り返し、2発殴られたら2発殴り返し、蹴られたら蹴り返す……こうした対応法の落とし穴は、双方の応酬がエスカレートしやすいことだ。

 先に1発殴ったのが相手で、同じ1発を殴り返したとしても、相手が同じ分だけ返されたと認識するかどうかは不明で、やり返されたことでカッとなって、さらに殴りかかってくることは珍しくない。言葉の応酬から始まって取っ組み合いに発展するのは子供の喧嘩によくあることだが、自制する力が伴っていなければ、やられた分だけ、やり返すという対応法は挑発行為となりかねない。

 やり返すという対応法は、他人と対等の立場に常に立っていようとする意志に基づく。批判されてもろくに反論せず、嘲笑されても黙ったままで、1発殴られて泣きべそをかくだけだったなら、なめられる存在となり、対等の立場に立つとはみられなくなる。だが、対等の立場にない者が対等に振る舞うと、相手を挑発する行為と見做されたりもする。

 やられた分だけ、やり返すという対応法は外交にも用いられる。強く批判されたなら強く批判し返し、経済制裁されたなら経済制裁し返すという外交で最近目立つのが中国だ。中国はEU関係者らや英国の政界関係者ら9人と4団体を対象に制裁を科し、また、米国とカナダの議員らにも制裁を科すと発表した。これは先にEUと米、英、カナダが対中制裁を実施したことに対する対抗措置。

 中国の主張は「ウイグルの人権問題を口実に中国に制裁を実施し、内政に干渉した」「噓と偽りの情報に基づいて一方的に制裁を実施した」など強硬で、譲歩する気配は皆無だ。世界2位の経済大国になり、欧米と対等の立場に立ったとの自負と、国内で愛国主義を煽っているので、欧米の主張に少しでも譲歩すればプライドを傷つけられた人々の怒りの矛先が中国共産党に向かいかねず譲歩できないのだろう。

 以前から指摘されていたウイグルにおける大規模な人権侵害を口実に今になって欧米が中国に対する批判を強め、経済制裁に動くのは、中国に対する警戒感の高まりを示す。欧米主導の世界秩序に対する現実的な脅威だと認識したのなら、封じ込めの動きの手始めかもしれない。だが、欧米企業との経済的な結びつきが緊密なので中国は欧米に対して強気に出ることができるし、欧米も経済的な関係を壊してまで中国封じ込めに動くことはできまい。

 やられたら、やり返す外交は他国と対等の立場に立とうとする主権国家にとって当然かもしれないが、自制心が希薄ならエスカレートしやすいことは子供の喧嘩と変わりない。欧米にとってウイグルの大規模な人権侵害は対中国の交渉カードに過ぎないだろうが、中国にとっては妥協の余地がなく、否定し続けなければならない。エスカレートしやすいのは中国のほうだ。