望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

青函トンネルを移譲

 JR北海道の経営不振は有名だ。全区間が赤字だが、鉄路の維持管理に要する多額の費用を削減することはできず、関連事業も頭打ち。2019年3月期の連結決算では最終損益が179億円の赤字で3期連続の最終赤字(売上高にあたる営業収益は1710億円)。放ってはおけないと国はJR北海道に19~20年度の2年間で総額400億円規模の財政支援をする。

 最も赤字額が大きかったのは、乗車率が24%だった北海道新幹線で95億円。この乗車率は他の新幹線などと比べ低いように見えるが、乗客数で見ると、青函トンネルを特急が走っていた以前と比べて大差はない。つまり、この区間の鉄道利用の需要は、たいして増えても減ってもいない。

 開業している北海道新幹線は、新青森新函館北斗間の約150キロ(札幌まで開業するのは2030年度末)。東京方面からきた東北新幹線新青森から先はJR北海道の管理する区間を走る。駅は新青森奥津軽いまべつ木古内新函館北斗で、青函トンネル奥津軽いまべつ木古内の間にある。青函トンネルの維持管理のためのJR北海道の負担額は年間41億円という。

 青函トンネルは貨物列車も走り、その本数は北海道新幹線の約2倍になる。北海道各地で収穫される大量の農産物などを本州へ移送する大切なルートだ。軌道幅が異なるため青函トンネル区間では、貨物列車用の2本のレールの外側に新幹線用のレールを1本加えた三線軌条となり、すれ違いなどを考慮して青函トンネル区間では北海道新幹線の最高速度は抑えられ、高速列車という新幹線の利点が消されている。

 青函トンネルは、北海道側から見れば本州への入り口(=北海道からの出口)であり、本州側から見れば北海道への入り口である。利用状況からすると、本州への入り口としての役割が大きいので北海道側の負担とし、JR北海道が維持管理を担当していることに不思議はないのだが、JR北海道の経営不振を考えると、青函トンネルの維持管理をJR東日本に移すことも考慮に値しよう。

 その場合の問題点は、第一に北海道新幹線JR東日本に移る、第二にJR東日本には負担増が大きく利点が少ない。後者については、新函館北斗駅までがJR東日本区間になることで、首都圏などからの北海道観光を多彩に展開でき、東北の観光地と組み合わせたり、多様な観光列車を企画したりと集客を図ることができよう。北海道という人気観光目的地をJR東日本が自在に活用できる。

 北海道新幹線JR東日本に移ることで北海道民には心情的な喪失感があるだろう。北海道新幹線も鉄路も維持されるので実際の損失はないのだが、北海道の衰退の象徴とも見えるかもしれない。だが、本州側が管理することで青函トンネルが北海道への入り口としての性格を強め、本州側の視点での経済開発が始まるなら、北海道は失うものより得るものの方が大きいだろう。